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つかつく砂吐き推進委員です。ヨロシクお願いいたします。

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エンジェリック 5

「いってーなっ!暴れんなって言ったろーが!」
「暴れるに決まってるでしょーが!このエロバカっ!」
「患者殴っていーのかよ、暴力看護師」
「そ、それは・・」
「痛みに耐えてる俺を、更に痛いめにあわせやがって。ああ痛てぇ」
「や・・・やなヤツ~!!いいよ、じゃあ痛み止め使ってあげる。座薬刺すからお尻だしなよ」
「は?」
「片手じゃできないからやってあげるって言ってんのっ!早く、お尻出しな!」
「なな何考えてんだ、てめ、出すわけねーだろが」
「痛みを取ってあげるのよっ!」
「あの、牧野様」
呼ばれて振り返ると、西田さん・・・・
それに師長に武田先生に看護部長に事務部長に院長先生まで・・・・・・

・・・・・3分前でなくて本当に良かった・・・・
まったく病室であんな事してこのバカは。

それにしても、大財閥の御曹司だからって、こんな物々しく挨拶なんか来なくていいのに。
あ~やだやだ。権威体質。
少し呆れながら退室する。

処置室に戻って指示の点滴の準備をしていると、優紀が隣に来た。
「お疲れ、つくし。呼び出された?」
「そーだよ、あのバカが!」
「聞いたよ~。大変だったみたいだね・・・今日、あたしが道明寺さんの担当なの。つくしの親友ってことで、  協力してくれないかなぁ」
くすくす笑いながら言う優紀に、肩をすくめて笑った。
「だいじょーぶ。さっき、ヤキいれといたから」
「やだ、ヤキって何」
軽口を叩いている間に点滴の準備ができた。
「これやってきたら、あたし帰るから。あとヨロシク」
「わかった。助かる。ありがとね」

トレイを持って、処置室を出ようとしたところを師長さんに捕まった。
明らかに挙動不審な師長さんは、あたしが持っていたトレイを取り上げながら、優紀にかわりにやるように指示した。
そのまま師長さんに部長室へ引っ張って行かれた。
待っていたのは西田さんと看護部長。
並んでソファに座った二人は、とんでもない事を言い出した。


「牧野様、昨夜の入院から今まで、司様が大変お世話になりました」
「え?あ・いえ・・仕事ですから」
「実は、今どうしても外せない案件がございまして、今日午前中に退院させていただくことになりました」
「・・・え・・・・・・・だって・・・・・。あの、先生から聞いたと思うんですけど、注射、1週間は続けないと危ないですよ。いくら大事な仕事があるって言っても」
「大切な仕事です。司様の一生と、もしかしたら道明寺財閥の未来が掛かっているくらいに」
「でもっ!でも、いくら大事な仕事だって言ったって・・・・ちゃんと治療しないと、右手がダメになっちゃうかもしれないんですよ?」
ポーカーフェイスの西田さんが、妙に憎らしく思えて、ほとんど怒鳴る勢いで言った。
あたしがアイツを守らなきゃいけないような気持ちになっていた。
「牧野様」
眼鏡の奥の瞳をちらりと光らせて西田さんが言う。
「道明寺を助けて下さいますか?」
「え?それは、あたしに出来ることなら・・・友達だし・・・」

能面が、ニヤリと笑ったような気がする・・・。
それとも見間違い・・・?

「牧野さん」
それまで黙っていた部長がにこにことこっちを見た。
うわっ!こわっ!
この3年で身にしみた。
エライ人の笑顔にはゼッタイゼッタイ裏があるんだから。
「道明寺さんの助けになりたいって言うあなたの気持ち、素晴らしいわ。私も是非、そうしてほしいと思います。牧野さん・・・道明寺さんは、退院後もあなたに援助してほしいと希望されています。特例ですが、今日から訪問看護部に移動してください。そして、道明寺さんの完治まで、看護すること。出張扱いになりますけど、道明寺さんは住み込みでと希望されてますよ」
「お断りします」

我ながら素速い。
「牧野様、さっき助けて下さると・・・」
「牧野さん、患者さんの御希望ですよ」
ヤだよっ!
住み込みなんてっ!
別れた男と一緒に住むなんて冗談じゃない!
「絶対、イヤ、です。強制されるなら、ここを辞めて・・・・・」
思い切って言ってみた脅しは、百戦錬磨のタヌキとキツネにスル―された。
「牧野さん、そういえばあと一か月だったわよね、お礼奉公」
う・・・・・。
そうだけど・・・・。
「今やめたら、全額返済よ?勿体ないわねぇ。あと一か月だったのに」
あっ!
くそっ!
奨学金で学校通ったのがここで裏目に!!
「お、脅しですか」
「そんな訳ないじゃない」
部長は立ち上がると、書類を一枚持ってきた。
「・・・もう辞令まで出てるんじゃないですか」
大人げなく膨れたあたしに、笑いながら言う。
「いいじゃないの、これはあなたにしかできない仕事。あなたにしかできない看護よ。
きっといい経験になると思うわよ!」
なんか、うま~くごまかされてる気がするけど・・・
もう逃れようがないのが分かって、ハラを決めた。
「はぁ・・・・わかりました・・・・・・行ってきます」
部長は大きく頷くと、内緒話のポーズで言った。
「ここだけの話、道明寺さんがお礼にMRIを寄贈してくれるんですって」
「えーっ!!!!」
・・・・・・3億すんじゃん。
びっくり、のまま西田さんを見た。
「・・・・・賄賂ですか」
「やーねー、牧野さん。寄贈だってば」
もう一度溜め息が出た。
MRIにつられて、あたしは人身御供かよ・・・


それからが大変だった。
病院でも初めてのケースにドクター・病棟・外来の訪問看護部・事務総出で調整にあたり、とりあえずのシステムを作った。
あたしは寝てない頭で参加し、その間にも道明寺の呼び出しがあり
『うっさい!優紀にやってもらいなっ!』
と叱りつけ。
一旦寮に戻って自分の荷造りをしたり。
点滴類や衛生材料を準備したり。
リムジンに乗り込み道明寺の隣に座った時にはもうへろへろだった。

「あんたこれ踏んでて。動かないように」
車内持ちこみ用に低くした点滴スタンドを渡して、クレンメを調節する。
「あ~・・・もう、どっと疲れた」
「・・・・・・悪りぃな」
「もう一回」
「・・・・悪りぃ・・・」
「もっと心をこめて」
「調子にのんな」
「ははは、あ、ねぇ、痛みは?動いたけど大丈夫?」
迎えに来る運転手さんに、『クッションたくさん積んできて下さい』って頼んだらほんとに山のように積んできてくれて。
手の台に使ってもまだ余ってるからあたしも借りている。
気持ちいいけど寝ちゃいそう。
「ああ」
「あんたんちに着くまで寝てたら?」
「いや、いい。西田」
道明寺は向かいに座った西田さんに声をかけると、ファイルを受け取りめくり始めた。
さっそく仕事か。
道明寺の一生を左右するような大切な仕事だって、西田さんが言ってた。
あたしは、自分も道明寺のカルテを取り出し記録しながら、思った。
看護師になって良かった。
今この時、助けられる自分で良かった。
精一杯サポートしよう。



パラパラと書類をめくっていた音が止み、何か視線を感じて顔を上げると、道明寺が
じっとあたしの手元を見ている。
「なに?」
「いや、何書いてんのかと思って」
「記録。あんたの」
「だと思ったけど、見てても全くわかんねぇ。」
「あはは、そうかも」

11:30 移送中。疼痛自制内。痺れなし。
   右手指腫脹持続。再充血あり。
   爪床色良好。尺骨動脈触知良好。
   手指関節ROM制限なし。

「なんだよこれ。漢詩かっつーの」
「漢詩って・・・ははは。そうだね、言われてみれば」
「どうせ俺の事書くんなら、もっと違うこと書けよ」
「どんな?わがまま、とか?」
「ちげーよ!あ、愛してる、とかよ」
「死ね」
ぐぎゅ・・・っと、西田さんからヘンな音がした。
・・・・・おかしいなら笑ってくださいよ・・・
・・・怖いから・・・

「病院で、医者と喋ってんの見てた時も、正直ビビってた。あんまりビシッとやってっから
知らねー女みたいで」
「あんたの書類だって、あたしが見ても全然わかんないよ?」
「そっか?」
「そうだよ。そういう事だよ?あたしはあたしに出来ることをやって、あんたはあんたに
出来ることをすればいいじゃん」
「ん・・・だな・・・・正直どうしようと思ってた。詳しくは言えねーけど、ここ7年、ずっとやってた事があってよ。 ここ1週間で、こっちで最後の調整しなきゃなんねー。お前がいなきゃ、もうダメだったな。サンキュな」
「まだ早いっつーの。それじゃさ、目標は、怪我を治しつつそのプランを成功させる事ね。腕が元に戻るまで協力するから、あんたもあたしの指示に従うこと」
「わーった」
視線を交わして、笑い合った。
拳を握って、道明寺とぶつけた。
「久しぶりに見ました」
何を、なのか西田さんは言わなかったけど。


その後、車の流れも順調で、予定通りに道明寺の家に着く。
「牧野様」
西田さんの尋ねるような視線に
「病院を出る前に解熱剤を注射してきたせいだと思います」
と答えて、タオルを取り出す。
貧血の身体での移動が、さすがの道明寺にも堪えたのかさっきからウトウトしていた。
その額に玉の汗。
そっとタオルで押さえながら声をかけた。
「道明寺」
「ん・・あぁ・・・寝てた」
「ノド渇いてない?」
「渇いた・・・・っつーか、あちぃ」
「熱が下がってきてるからね。もうちょっとであんたんちに着くけど、着替え、我慢できる?」
「今すぐ全部脱ぎ捨ててぇ」
「ヘンタイかって。はいポカリ」
キャップを取って渡しながら、今日何本目になるのかわからない、タマ先輩への電話を入れる。

「もしもし、つくしです。・・・・・はい、もう少しで着きます。・・・・はい、車椅子は玄関で。・・・・・え?
あ、はい、コンセントは2つで大丈夫ですけど、ベッドの近くに。・・・・・はい、見せてもらいますね。
それじゃ、お願いします」
「タマ?」
「うん、あんたの事、すごく心配してた。昨日、病院まで来ようとしてたのに止められたって」
「あんな年寄りが夜中にウロウロするもんじゃねぇ。患者と間違われて収容されちまうぞ」
「貧血でげっそりのくせに口は減らないんだから」
「血なんて気合いですぐ増やしてやるよ」
「あんたなら出来そう・・・」
軽口を叩きながらも熱でダルそうで
見慣れた玄関の前に車が着いた時には安心した。








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