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つかつく砂吐き推進委員です。ヨロシクお願いいたします。

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エンジェリック 4

「牧野っ!」
窓のところに立って電話をかけていたウルトラバカは、あたしを見ると顔を上げて嬉しそうに笑った。
笑ったってダメっ!
点滴ピ―ンってなってるじゃんっ!
まだ室内歩行の許可出てないじゃん!
シリンジポンプ、ついてるくせに携帯使ってんじゃないよ!

何から言ってやろうかとズカズカ近づいたあたしの目に映ったのは・・・・。
下げられて、腫れてうっ血した右手。
見た瞬間、頭が真っ白になった。

「こんの・・・・どアホっ!!!」

慌てて駆け寄り右手に触れる。
ひんやりとして紫色。
動脈を探ると昨日より弱い。
「いつから」
「あ?なに?」
「いつから下げてるの、手!」
「わかんねー」
「・・・・・・・あんたが患者じゃなかったらぶん殴ってやる」
怒りのあまり声が震えた。
脈をとる手も。

「だいたいあんたは」
窓際に立つ道明寺を引っ張ってベッドに突っ込む。
「何考えてんのよ。観察も処置もみんな拒否するなんて」
リネン庫から持ってきた枕を何個も使って右手を高くする。
「夜勤のスタッフが言ったでしょーが!ベッド上安静!右手は常に心臓より高い位置に!
手を絶対冷やさないこと!」
手の下に、タオルでくるんだ電気あんかを置いて上からバスタオルを被せた。
「・・・・ぎゃーぎゃー喚くなよ・・・・傷にさわるだろーが・・・・」
大人しくポジショニングされているわりに言い返してくる。
いつもならあたしが負けちゃう『捨てられた子イヌの目』攻撃。

・・・・・ホントに殴ってやろうか・・・

あたしはベッドにもたれる道明寺の顔の横に両手をつくと、無言のまま、ギリギリ睨みつけた。
ごくり、と道明寺の喉が鳴った。
「・・・・・ごめん・・・・・・」
掠れた小さい声に、胸がぎゅんと痛くなった。

何よ

これじゃあたしが苛めてるみたいじゃん。

「いいよ、もう」
溜め息をひとつついて。
ワゴンからドップラーを取り出す。
左手貸して、と言うと身体を起こして手を出してくる。
クッと、手首を押さえて動脈に当てた。

しゅわん しゅわん しゅわん しゅわん しゅわん

澄んだ力強い拍動。

「次は右手」
タオルの中に機械ごと入れて、うっ血した手首にあてた。
「わかる?」
「ああ・・・・」
「左より音が小さいし、雑音も入ってるでしょ」
プツン、と機械を止めて脇に置いた。
そのまま両手で道明寺の右手をさすった。

「まきの・・・?」
「ん?ああこれは好きで握ってる訳じゃなくて、腫れてるからマッサージしてるだけだから」
「相変わらずひでぇな、お前・・・・・」
「なにがよ。そんな事より、入院中はちゃんとこっちの指示に従ってもらわないと困る。
バイタル・・・ああ、熱とか血圧を測るのも、いろいろ触るのも、必要だからやってんの。
興味本位で触ってる訳じゃないの。見せてもらわないとわかんないでしょ。
ほら、実際、血流が悪くなってるのにいつからかわかんないし」
道明寺は大人しく手を預けている。
そのうちに、眉間にしわを寄せて難しい顔になったと思ったら、上目遣いでこっちを見た。
「なあ・・・お前、俺の事嫌いになったか?・・・その・・・言うこときかないから」

・・・・・・なによ、この目は。
・・・・・・この男、もしかしてわざと?わざとなの?。

あたしは慌てて点滴を調べるふりをして目を逸らすと、顔をそむけたまま言った。
「好きも嫌いもないよ。あんた今あたしの患者だもん。あたしが考えてるのは、あんたを少しでも楽にしてあげたい、完治に近づけたいってことだけだよ」
平常心。
平常心。
「牧野様、申し訳ありませんでした」
「ひぇっ!」
「いってぇー!!」
いきなり後ろからかけられた声にびっくりして、思わず道明寺の手をぎゅっと握ってしまった。
「あっ!ごめん!」
「てめっ!」
「ごめんごめんって。それより西田さん、いつのまに・・・」
「・・・・最初からおりましたが・・・・・」
「えっ!!全然気がつかなかった」
「・・・・・・・だと思いました」
西田さんはポーカーフェイスを一瞬緩め、沈痛な表情を見せてから頭を下げた。
「手術後の注意点など、指導していただいていたのに守れなく、申し訳ありませんでした」
「あ、やだ。顔上げてください、西田さん。悪いのはこのバカなんですから。西田さんだって言ってくださったんでしょ?それを聞かずに勝手な事ばっかりしてこのバカは。もう、血管詰まって腐って切断なんて事になっても、ぜ~んぶ本人のせいです。あたしが保証します」
「てめ、バカバカ言うな!」
「なによ!」
あたしが、またナースの立場を忘れて道明寺を殴りそうになっていた時、ノックの音がした。


「牧野さん、来た?」
引き戸を開けて入ってきたのは武田先生。
「あ、お疲れ様です」
「お互い様です。寝た?」
「あー・・・若いから大丈夫です。先生は?」
「うん、若いから大丈夫」
顔を見合せて笑った。
昨日の緊急OPを一緒にやっつけた連帯感。
まあ、その患者は目の前で、なぜかあたしたちを睨んでるんだけど。
「傷、診たかったんだけどさ、牧野の介助じゃないとヤダって言うし。今いい?」
「あ、はい。すぐ準備してきます」


回診車を準備して来て処置の準備をする。
包帯を取りながら
「熱あります、8度5分。血圧100台。レート80台ベースです。Spはルームで97%。あと、すみません。挙上してなかったんで腫れちゃって・・・・冷感ありますけど、ドップラーはOKです」
「そうか・・・シリンジ、3に上げて。あと、これ終わったら点滴。指示出しておくから」
「ルート同じでいいですか?」
「うん。全開で」
「あと、熱発時①は座薬になってるんですけど、多分拒否すると思うので筋注行きます。
血圧も低いし」
「いいよ」


処置が終わって病室を出て行く先生を追って、西田さんも出て行った。
「どうしたの?おっかない顔して。痛むの?」
包帯を巻きながら声をかけるとボソッと
「2人で仲良く、俺にわかんねー話してっからだろ」
「あんたには今から説明するってば」
少し笑いながらあたしは、Drの指示を説明した。
「わかった?」
「あの医者気にいらねぇ」
「ちょっと・・・・今の説明聞いてたの?」
「当然みてーにお前に命令しやがってよ。ムカつく。
お前も黙って言うこと聞いてんじゃねーよ」
「言うこと聞いてんじゃなくて、医師の指示に従ってるだけでしょーが」
「お前、自分は誰にも従うつもりはないとか言ってたじゃねーかよ」
「うるさい、ガキかあんたは」
「ガキで結構。気にくわねーんだよ」

単なるイチャモンじゃない、これ・・・・

ここでこいつに臨床の仕組み、とかを説明してるココロの余裕はない。
注射を準備しようとベットから離れかけると、いきなり身体に手が回されて道明寺の身体の上に引きずり上げられた。

びっくりして顔を上げると熱で潤んだ真っ黒な瞳が目の前にあって
「片手しか使えねーから、暴れんなよ」
「え・・・・あ・だめちょっ・・・・」

アツい。

文句を封じ込めた唇も、背中に回された手も、燃えるように熱い。
逃がしはしないというように、いきなり深められたキスに焼かれる。
きつく吸い上げながら何度も角度を変えて。
半開きのままだった唇の隙間から舌が入ってきて、あたしのそれを絡め取り、そのままで
「冷たくて気持ちい・・・」
不明瞭に呟いた。
あたしの喉に響く低い声。

あんたが熱いんだよっ!
つか何でこんな事になってんのよっ!

顔を背けて唇から逃れると、ちゅ・と小さく音が鳴り、いたたまれない気分になる。
押しのけようと腕に力をこめると
「暴れんなって。傷にひびくだろ」
たしなめるように言ってまた唇をとらえた。
「や・あ・・・」

ちゅ 

くちゅ

病室にありえない音が反響する。
あたしは恥ずかしさの余り、自制心をぶっ飛ばし
ゴツッ!
「いっ・・・・!!!!」

ナースとして、してはいけない。

患者の頭にゲンコツを落としていた。





                                                         

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