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つかつく砂吐き推進委員です。ヨロシクお願いいたします。

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エンジェリック 1

「あ~、お腹いっぱい」
お腹をさすりながら満足して溜め息をつくあたしに、優紀が笑いかける。
「そんなに食べて大丈夫?」
「食べとかないと!今日、救急だもん。きっと帰りまでノンストップだよ」
「来るね、患者さん」
「いいな~。優紀、休み~」
「ふふふ、その分明日頑張るよ」

看護師寮の食堂で、優紀はおやつ。
あたしは出勤前のご飯。
何となくついていたTVから、急に歓声が聞こえて振り向いた。
画面の中には、黒スーツのでかい男がいっぱい。
「今日だったんだ」
ぽつりと漏らすと、優紀が悲しいような、困ったような顔で見ていた。
「大丈夫だよ。優紀、心配しないでよ」

笑える。

昔捨てられた男を見ても笑える。

当時は辛かったけど。
普通に10キロほど痩せたけど。
目が炎症起こすくらい泣いたけど。
さすが雑草。
再生するのよ、元気に。

画面には『道明寺司さん、7年ぶりの帰国』。
「・・・・・もう7年も経ったんだね」
「ね~、早いよね~。あたしたちも、もう24だよ。どうする?」
「どうもしないよ。あはは。あ、つくし時間いいの?」
「わ、そろそろヤバい。じゃ、行ってきます」
「うん、頑張ってね」

ロッカーで白衣に着替えて、髪をアップにする。
シューズをはきかえて。
気合いを入れ直して。
戦闘準備OK。

「お疲れ様で~す。宜しくお願いしま~す」」
「お疲れ様で~す。牧野、今日入院係でいい?」
「OKです。何床空いてます?」
「3床。特室も空いてるよ。」
「特室は入んないでしょ」
特別室。
まるでホテルの部屋みたいな造りのそこは、ほとんど予約の患者さんが入院するところで、
救急入院で埋まる事はまずない。
だって一泊2万円もするんだもん。
っつーかあの部屋使いづらいから誰も入んなくて良し!
そのうちもう一人の夜勤者も出勤して、勤務が始まった。


RRRRRRRR・・・・
「はい、3西、牧野です」
「救急外来です。消防隊から連絡ありまして入院お願いします。25歳男性。右前腕をナイフで刺されて動脈損傷。救急車、あと5分で到着します。直接病棟に上がって、緊急OPになります」
「わかりました。先生は?」
「武田先生です。着いたら連絡してください」
「はい」
電話を切って他の夜勤者に連絡する。
「ナイフ!もしかしてヤクザ?」
「さあ・・・緊急OPになるので、何かあったらお願いします」
「うん、声かけて」

入院とOPの準備をしてる間にも、救急車のサイレンが聞こえてくる。
「ああああたしどうすればいいんでしょうか~」
と不安げな新人に
「緊急OP初めて?あたし全部やるから、いいよ。自分とこ看てて」
とにっこり笑って。

ちん。
エレベーターの到着音。
来た。
これからの流れを頭の中で組み立ててたのに。
降りてきたストレッチャーを見た瞬間、全部ぶっ飛んだ。
「ど、道明寺~っ!?」
リクライニングのストレッチャーに座っていたのは、さっきTVで見た。

道明寺だった。


「・・・・牧野っ」
お互い口をあんぐりあけて、数瞬。
「お疲れ様です、患者さんお願いします」
救急隊員の声に我に返った。
いけない。
「立てますか?」
道明寺を病院のベッドに移して、申し送りを聞く。
「16:50受傷。ナイフで右前腕を刺されました。すぐに出動要請ありまして、搬送中のバイタルはこちらです。心電図、異常ありません。意識清明、出血多くガーゼで圧迫止血中です」
「わかりました。お疲れさまでした」

救急隊員が帰って。
さあ。
やるぞ。
昔付き合ってた男だとか。
その後捨てられた男だとか。


気にすんな。


「担当の牧野です。宜しくお願いします」
「秘書の西田です。入院中の事は、ご家族から一任されております」
「何でもお願いしていいですか?」
「はい」
出血が続いているから、結構急ぐ。
受傷から時間が経ってるし。
でも、焦りを見せたら患者が不安になるから。
なるべく淡々と。
落ち着いて。
やるべきことをやる。

医師にコールしてからハサミを取りだす。
「道明寺、シャツ、切っちゃっていい?」
「・・・・ああ」
スーツもYシャツも血まみれで、血液特有の匂いがする。
シャツの袖から切り開くと、創に当たったガーゼもぐっしょり濡れていて。
ぺろっと捲ってみたら、まだドクドクと出血していた。
「痛みは?」
「大丈夫だ」
「痺れは?」
「ねぇ」
手早くガーゼを換えながら聞いていく。
「指を動かしてみて」
顔をしかめながら握ったり開いたりする手指。
うん・・・神経損傷はなさそうかな。
上だけ脱がせて横にしたところに医師が入って来た。
診察を介助しながら、OPの準備を進めていく。
「先生、ルート、手でもいいですか」
「いいよ、牧野さん、ちょっとここ押さえてて」
「はい。道明寺さん、失礼します」
診察しながら、OPの術式とリスク・合併症などが話された。
「じゃ、準備できたら入室」
「はい。え~と、じゃあ着替えるので、西田さん外でお待ち下さい」

術衣と、T字帯を取り出して振り返ると、道明寺が緊迫した顔でこっちを見ている。
「何だよ、それ」
「T字帯・・・・ああ、下着。手術の時の」
「自分でやる」
「無理。じゃ、失礼します」
一応毛布をかけてから、ベルトのバックルに手をかけると、左手で止められた。
顔見ると真っ赤。
貧血のくせに。
「邪魔しないでよ」
「自分でやるっつってんだろ!」
「無理だっつってんでしょ!恥ずかしがってる場合じゃない!あのね、早く手術しないと貧血が進んで危険なの!それにそんなに興奮したら、また出血するじゃない!大丈夫!そんなの、今まで何百本も見てるから!全然気にしないから!」
「おまっ・・・」
「はっはははは・・・」
「ぶーっ!!ぎゃはははは!」
「くっははははは!!」
カーテンの向こうからゲラゲラ笑う声。×3。
来たな。
ヤジ馬ども。
「牧野っ・・・おまえ・・・ははは、そんなのって何だよ!」
「ぽん、ってのはやめろよ、一応女なんだからよ・・・」
「くっくっく・・はしたないよ、牧野」
「病院ではお静かに!・・・・っていうか、しょうがないから誰か着替え手伝ってやってよ。
これじゃ準備が進まないし」
「入っていいの?」
「うん」
カーテンを開けて入って来た3人は、笑いながらも心配そうな目で道明寺を見た。
「よう、司。元気・・・はねーよな」
「お帰り司。大丈夫?」
「帰国してすぐ刺されるなんてなぁ」
「さすが」
「うるせーよ」
「今ね、準備でき次第手術室に行くから。結構急ぐ。だから着替え手伝ってあげてくれる?
これ、前でチョウチョ結びして後ろからこう通してくればいいから」
「しょうがね~な。ちょっとキモイけどやってやっか」
「お願い、美作さん」
美作さんを残して処置室から出ると、西門さんと花沢類が覗き込んできた。
「大丈夫?牧野は」
「あ、うん。びっくりしたけど・・・・仕事中だし。・・・患者だし。大丈夫だよ?」
「刺されて偶然牧野の病院へ・・・か。すげぇな、アイツ。野生のカンってやつ?」
「ねぇ、牧野は」
「さあ、もう着替えは終わったかな~」
何となくマズイ話が始まりそうな予感がして、大声で話をブチ切った。
「くくく・・・牧野。病院ではお静かに」
花沢類に笑われたけど。







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2016/02/22(月) 07:38 | | #[ 編集]
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