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つかつく砂吐き推進委員です。ヨロシクお願いいたします。

復讐の女神 4

約束通りの7時に、車を柴崎物産の前に付けると、牧野が出てきた。
「よお」
「・・・・よお」
「乗れよ、メシ行こうぜ」
車から降りてドアに手をかけたまま待ったが、牧野はきっぱり首を振った。
「メシは行くけど、車はいらない」
そういうと牧野は、運転手にスペシャルな笑顔を見せて車を帰し、
あれよあれよと言う間に俺を引っ張って路地をくねくね進んだ。
っつーか、どこだここ。
一人で帰れそーにねぇ。
「おい、どこ行くんだよ」
「着いたよ」

足を止めて指さしたのは木の格子戸。
何屋だよ。
看板も出てねーし。
異常に建物小せーし。

牧野は慣れた感じで格子戸をガラっと開けた。
「こんばんは~」
とか言いながら入って行く。
そして躊躇する俺をくるりと振り返り、
「大丈夫。おいでよ」
と、にっこり笑った。
操られるように、俺も後に続き・・・ゴンッ!!
「いっ・・・・!!!」
「あ、戸口、頭気をつけてね」
「遅せぇよ!!」
「ははははは」

「いらっしゃい、牧野さん」
人のよさそうな、カウンターの中のオヤジ。
すげえ。
テレビから出てきたみてぇなベタな格好。
ねじり鉢巻き・・・っつーのか?
オヤジにクギ付けになってると(やな表現だな)あちこちから声がかかる。
「よお、牧野秘書。彼氏か?」
「おお、ついに鉄壁の守り、崩れた?」
「やべー、俺、専務とつき合ってる方に賭けてんだよ」
「彼氏さん、どっかで見たことあるなぁ」
陽気に呑んでいる数人のオヤジ。
牧野は笑って
「接待でーす」
と返事すると、オヤジに上空いてますかと確認して、店の一番奥まで進んだ。
「あんた先行って、あたしスカートだから」
「?」
「パンツ見える」
「お前先行け」
「るさい、早く行け。ちょっと、靴は脱ぐの!」


階段を上がると、小さい個室になっている。
牧野がいつもの感じでとオーダーした料理と酒が揃い、ジョッキをぶつけた。
「お疲れ様です」
予想より機嫌がいい。
「なあ、ここよく来んのか」
「来る来る。週3日は来るかな。蓮がさぁ、サボってばっかで
残業ばっかでさ。当然あたしも残るじゃん。一回、お腹すいてイライラして
ぶっ飛ばしたらさ、それから残業の後はここでご飯食べるのが恒例になっちゃって」
連って・・・名前呼びかよ。
俺の事は苗字であいつは蓮って・・・。

頭くる。
頭くる。
あったまくんなぁ。
つか、その残業ってわざとなんじゃねーの?
俺だって牧野と晩メシ喰えんなら、いくらだって残業する。
絶対する。
「大企業のJrがこんなとこの常連かよ。しけてんな」
「こんなとこいうな。ここ良いんだよ、美味しいし、安いし」
出た、安いし。
ひっさしぶり。



「それにねぇ、いつもは下でご飯食べるの。ここ、うちの会社の人たちも
よく来るから、情報収集がてら」
前に並んだ小鉢から、ヒモみたいなものを取りながら、うんと頷く。
「・・・・ヒモ?」
「紐?」
それを指さすと、牧野は箸の先のヒモと俺の顔を交互に見て、爆笑した。
「あはははは!!!うん、そう。ヒモ。あはははは、食べてみる?ヒモ」
ゲラゲラ笑いながら箸をこっちに突き出して。
俺が喰うわけねーと思ってんだろ。
ばーか。

「行儀わりーな。人に箸向けんな」
言って、そのヒモにパクリと喰いついたら
「ぎゃ・・・」
とか言って赤くなって、紙ナプキンで必死に箸の先をこすり始めた。
ぎゃ、ってなんだよ!
「拭くな!」
「だだっだって」
「結構旨いな、このヒモ」
「そうだよ、切干しは、とっても栄養があるよ~。ほら、そっちにもあるから食べなよ。
そう、さっきの話。ほら、パーティーとかね、会食とかで上の方の人と顔つないだり、話ししたりってのも、大切だと思うんだけどさ、やっぱ、会社の中で一番多いのって、フツーのおじさんじゃない。だから、会社のこと把握するなら、そーゆーおじさんたちと話するのが一番なの」
まだ箸をごしごししながら、急にマシンガンみたいに喋りだした。
「おかげさまであたしもかなり情報通だよ。部長の愛人宅の住所まで知ってるもんね」
あはははは。
「っつーか、いつまで拭いてんの、それ。傷つくんだけど?」
「えっっ!?あ、ああ、ごめんごめんごめん。ほんとごめん」
焦って箸を置くと、そのまま手を下ろして下を向く。
沈黙。
階下から聞こえる笑い声が、際立たせる。





「謝ろうと思って、誘った」
ぽつりと漏らしたら、牧野が弾かれたように頭を上げた。
「お前の事、守るって言ったのに、迎えに来るって言ったのに、できねーで」
睨みあいみたいに視線を絡めて見つめあう。
「結局別れることになって、お前にはほんとに」
「道明寺?」
不思議な表情でこっちを見て、牧野が囁く。
「あたしが、何で怒ってるか、わかる?」
「・・・・・・捨てられたから」

わかってても、繰り返すのは辛い。
俯いて、呟くみたいに続けたら、急に蛍光灯の光がさえぎられて。
不審に思って顔を上げた途端に

ガツッ!

衝撃。
俺は軽く吹っ飛んで、畳に転がった。
テーブルの上で、揺れた皿なんかがガチャガチャと音を立てた。
「いっっ・・・てぇ」
ぐらぐらする頭を軽く押さえて起き上がろうとすると、腹の上に乗っかってきた。
震える手で腕を押さえつけられ、見上げると歪んだ牧野の顔。
・・・見たくなかった顔。


「あんた全然わかってない」
感情を押し殺すように、牧野は話し始めた。
「あたしはね、あんたと別れるのは、ずっと前から覚悟してた。。
やっぱ、住む世界も違うし、あんたのお母さんも認めてくれたわけじゃ
ないし。だから、あの時も、ああやっぱりなって」
腕を握った手の力が強くなる。
ぶるぶると震えて、怒りを必死で堪えているように。
俺は、牧野の真剣な顔を見上げることしかできなくて。
「あたしが悲しかったのは、あんたに捨てられたことじゃないよ。
別れるなら、あんたから直接言って欲しかった。
あんたから言われたら、あたし、笑って別れたよ。
それなのにメール1通寄こして、その後音信不通になっちゃってさ。
こっちが必死で連絡とろうと思っても拒否る拒否る。
ねぇ、それってありなの?俺も苦しんだからしょうがないとか言うつもりなの?
ふざけんじゃないわよ!!」
全身から、金色のオーラが立ち昇るような。
激しい怒り。
この炎は何度も見たことがある。
いつも俺が怒らせて。
いつもコイツは正面からぶつかってくるんだ。
懐かしくて、涙が出そうになる。
俺がどんなに卑怯だったか。
俺がどんなにこいつを苦しめたのか。
わかりすぎるから何の反応も返せない。



「・・・・て、怒ってたのよ、この前まで」
急に調子が変って、牧野が悪戯っぽく笑った。
腕を掴んだ力が緩む。

「でもさ、この前パーティーで宣戦布告したじゃない。
アレでかなりすっきりしちゃってさ、昇華したっての?
もういいやって思った。
だから、アレは取り消し。もう、3年も経ってるしさ、これからは
友達として仲良くやって行こ?」
いきなりの方向転換に頭がついていけず、アホみてーに口を開けて牧野を見上げる。
「弄んで、ボロボロにして捨てるんじゃねーの?」
「あははは、いいよ。勘弁してやる」
「ダメだ!」
「うわわわっ!!」
牧野を腹に乗っけたまま、焦って飛び起きると、バランスを崩した牧野が
後ろにひっくり返る。
背中に手を廻して支えると、両腕に閉じ込められた牧野が、目をまん丸にしている。
このままキスしたいのをギリギリ我慢して、その目を見つめた。
「ダメだ、お前、自分の言った事にちゃんと責任持て!」
「ダメだ・・・って・・・あんただって、許してもらった方がいいでしょ?
あたしも、すっきりしちゃって前向き傾向だしさ」
「だって、捨てられる前にお前とつき合えんだろ?」
「は?」
「弄ぶんだろ?言った事、ちゃんと守れよ」
「だから気持ちが変わったってゆーか」
「ウソつくんかよ。それって人としてどーなんだよ」
「・・・・あんたに人としてのあるべき姿、教えてもらいたくない・・・つか、
あんた言ってることムチャクチャだよ・・・」



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