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つかつく砂吐き推進委員です。ヨロシクお願いいたします。

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専務と私~アラブの王子様 2~






「ちょっと待って下さいってば!西田さん!西田さーん?」


重役室が並ぶ通路とは反対側。
同じ52階だが、こちらの通路は、突き当りの秘書室から流れ出てくる電話の音や人の話し声で、幾らかザワザワとしている。
そこを通り、つくしはまるで押し込められるかのように秘書室に入れられた。
そして、幾つものブースに仕切られた広いフロアの一番奥。
秘書室長のデスクの前で、西田から秘書室長に引き渡された。
「それでは宜しくお願い致します」
なんてひと言で。


「え?」
軽く頭を下げて、そのまま行ってしまった西田を、つくしが追いかけようとする。
しかし、秘書室長に後ろからがっしりと肩を掴まれ止められる。

「待ちなさい、牧野さん」
「室長!」
秘書室長は、緊張した顔をしてつくしに言った。
「君は、専務の許可があるまでここから出る事は出来ない」
「なっ、なに言ってるんですか。なんですか、それ」
「前々から、指示があった事なんだ。専務室で何かあった時には、牧野さんを秘書室に預けると。そして、専務の許可があるまでは目を離さずに見守るようにと言われているから」
「なにそれ~~~っ!!」
「だから、非常時の対応で・・・」


いつの間に、そんな事を決められていたのか。
専務室で何かあったらって、一体なにが?
そんな取り決め、いつしたんだか、あたしは全く初耳ですよ?
しかも、部屋から出さずに、目を離さず見守るって、一般的には軟禁って言うんですがっ!


「冗談じゃない」
つくしは、ダンと床を踏み鳴らした。


非常時なんかである訳がない。
絶対アレだ!
いつものアレだ!
見学にやってきたのが、王女様でなく王子様だったから、あたしは専務室からこの秘書室に預けられたんだ。

すぐに理解できてしまうようになったのは、耳タコくらいに独占欲を吹き込まれているからだろうか。
ありがたくない考察を頭の中で巡らせながら、つくしはキッと顔をあげた。
そして、ビクッとなった秘書室長に
「すいませんけど、失礼します!」
と、言い捨てると、そのまま秘書室を飛び出した。
パーテーションの影から、鈴なりで顔を出す秘書軍団の間を通り抜けて。

「あっ!ちょちょちょちょっと待って牧野さん!」
秘書室長の慌てた声を背に。






ガッガッガッガッ・・・

足音なんてたたない筈の、絨毯張りの通路を、まるで競歩並みのスピードで通り抜けて、つくしは専務室のドアの前に立った。
そして手を振り上げ、
ガンガン!!!
と、ノックすると、返事も待たずに中に入った。


専務室にいたのは司だけだった。

・・・だろうと思う。
見学のスケジュールから言えば、今は一階から順に、社内の要所を案内しているはず。
つくしが案内しているはずだったのだ。


つくしは、一直線に司に向かって歩いて行く。
司は、飛び込んできたつくしをチラッと見て、また手元の書類に視線を戻した。

「専務っ!」

大きな執務机を挟んで、つくしが司の前に立つ。
バンッ!と、注意を引くように机に手をついて身を乗り出すが、司は顔を上げない。


「~~~道明寺っ!」

今度は名前を呼んだ。
「秘書室預かりって、なに?なんであたしが秘書室に預けられなきゃならないのよ、この大事な日に。全く意味がわかんないよ。あのさ、今日、あたしがメインで案内するって、前から決まってたよね?あんたは忙しいから、どうしてもってところだけ説明して、あとはあたしと西田さんでって。それで予定組んでるんだから、あたしがいなきゃ駄目なの。今は代わりに西田さんが行ってくれてるのかもしれないけど、西田さんだって忙しいんだから、一日中は無理なの!ね、聞いてる?」
それでも司は反応しない。

「道明寺ってば!」
焦れたつくしは執務机を回りこみ、司のすぐ横に立った。
ようやく、司が顔を上げる。




「・・・ったく、お前ときたら」

機嫌の悪そうな三白眼は、長い睫毛を物憂げに持ち上げてつくしと視線を合わせた。
「さっそく脱走かよ。ったく、相変わらず、どーしよーもなく言う事きかねぇ女だな。大人しくしてろって、秘書室のヤツらに言われなかったのか?」
「だから、秘書室預かりって何の事よ。いつの間に、そんな事になってたのよ。前々から指示があったって、秘書室長が言ってたんだから。あたし聞いてない。そんなの聞いてないからね!」
「そりゃそうだ、お前には言ってねぇ」
「道明寺っ!!」

つくしは更に尖った声を出した。
一体なんなのよ、この道明寺の態度ったら!
可愛くない。
可愛くない。
可愛くないったらありゃしない。
冷静な顔して、書類なんか眺めちゃってさ。
話す気もない、みたいに、自分の周りに空気の壁作っちゃってさ。
これじゃ、あたしの方が大袈裟に騒ぎ立てて、ワガママ言ってるみたいじゃないか。


「お前がどんなに騒いだって、今日一日、戻す気はねーよ」
「戻らないと困るんだってば。あんたはいいかもしれないけど、西田さんがすごーく困るの!公私混同するなって、前から言ってんじゃん。いいでしょ、王女サマが王子サマになったって。ただ会社の中、案内するだけなんだし、別にいーじゃん。お姉さんの友達じゃないなら、あたしだって個人的に話なんかしないし、あの王子サマだって、別に普通の人だったしさ」
「普通だろうが異常だろうが、関係ないね。お前が喋ってやって笑ってやった時点で、俺の中じゃ撲殺決定なんだよ」
「ぼっ・・・!ぶ、物騒な事言わないでっ。ってか、信じられない!ココロせっま~い。嫉妬ぶっか~い。そんなので業務に支障を与えるなんて、許されないんだから。社会人失格」
「ああ、ああ、何とでも言え。言っても変わんねーよ」
「~~~~~~道明寺っ!」

頑なな司の態度に、つくしは苛立った声を上げて拳をぎゅっと握った。
このままぶっ飛ばして言う事を聞かせられたら、どんなにいいことか。
が、暴力に訴えても司の気は変わりそうにない。
つくしはひとつ息を吐いて気を沈めた。
それから努力して、できるだけ穏やかな声を出す。
「あのね、仕事なの。あたしが好きであの王子サマと関わりたいって言ってる訳じゃなくて、仕事だからそうするだけなの。ここの会社の人と話すのと一緒だよ。なにを今さら・・・」

「勘違いすんなよ、牧野」

低く放たれた言葉に、つくしは言葉を止めた。
「え・・・ひゃ・・・!」
スーツの腕が伸びて、つくしのウエストに絡みつく。

グイッ
「あ・・・あぶなっ・・・!」
そのまま強く引き寄せられ、つくしは司の膝の上に倒れ込んだ。


「うちの社の奴だからいいなんて、誰が言った?俺は、他のオトコがお前と目を合わせるのすら、許した覚えはねーよ」


至近距離で目が合う。
苛立ちを含んだような目が、つくしを睨み下ろす。
反論を封じ込めるような、強い視線で。
固まったつくしが見上げると、不意に、司は睫毛を伏せた。
ドクン・・・と、つくしの心臓が大きく跳ねた。

「・・・や・・・っ」


キス・・・される


ギュッと目をつぶって、司の胸に当てた手を思いきり突っ張ったつもりなのに、距離は数センチもあかない。
・・・が、覚悟した衝撃はいつまで経っても襲っては来ず、司に抱き込まれたままの身体が大きく揺れた。
恐る恐る目を開けると、目の前に螺旋を描く電話のコード。
そしてその先の受話器には、司の耳が当たっている。


「俺だ」
『・・・!!~~~!!・・・・・・!!』

ひと言発しただけで、電話の向こうの相手は用件まで察したようだった。
受話器から、平謝りする声が漏れ聞こえてくる。

そして司がゆっくりと受話器を元に戻し、つくしを抱いていた腕からあっさり力を抜いた時、


コンコンコンコンコンコン
コンコンコンコンコンコン

キツツキ並みのスピードで、専務室のドアがノックされ、
「ももももももも申し訳ありません~~っ!!!」
気の毒なほど慌てた秘書室長が、飛び込んできた。
「さ、さ、牧野さん。早く、早く秘書室へ!」

促されて専務室を出ていく時、つくしは一瞬司を振り返った。
納得していない目で。


パタン


音をたてて閉じたドアに向かい、司はボソリと呟く。
「ありゃ全然、諦めてねーな」

そして、くつくつと笑った。







  ***







「じゃあ、牧野さん。席はここを使ってね。パスワードは1234だから。それで、この打ち込み頼めるかな。朱書きを訂正して、あとはこの通りで」
「・・・はあ」



お願いだから、このフロアから出てくれるなと念を押された。

フロア中の秘書たちに向かって
「牧野さんから目を離さないようにね」
なんて指示された。

さりげなく、デスクの上の電話を隠された。

あたしは一体、どんな要注意人物なんだろうか・・・



・・・・・

・・・・・

・・・でも、やっぱり納得いかないし!

一人にされてすぐ、つくしはガタンと音をたてて立ちあがった。
そして振り返ると、パーテーションの陰から覗く、数人の美人秘書たちと目があった。

「・・・・わ」
「牧野さん、どちらへ?」
「え・・・あの、その・・・えー・・・ト、トイレ?」
「じゃあ一緒に行くわね」
「えーっ!?」
「ごめんなさいね、目を離さないように指示されているから・・・」

申し訳なさそうな、その表情に、つくしは何も言えなくなってしまった。

「あの・・・やっぱりいいです」
つくしが言うと、美人秘書たちは、秘書室長の目を盗むようにこそこそと周りに集まってきた。



「牧野さん、牧野さん」
こそこそこそ
「ね、牧野さん、専務と何かあったの?」
「え?ななな何かって?」
「だって、司様が牧野さんを傍から離すなんてねぇ」
「何かよっぽどの事情があったとしか」
「ねぇ」
「ねぇ」
「ねぇ」
秘書たちは、綺麗に巻いた髪を揺らしながら頷き合う。

「べ、別に何も!何もないです」
アイラインばっちり、睫毛バサバサの、美しい数個の瞳に見つめられ、つくしは何となく居たたまれなくなり
「せ、専務のお考えは、あたしなんかには・・・(意訳:アイツのぶっ飛んだ頭の中身は、常識人のあたしには理解不可能ってもんですよ、全くもう)」
と、濁した。

すると秘書たちは、再び顔を合わせて頷き合った。
そして、つくしを囲む包囲の輪を狭めた。

「牧野さん」
「はっ、はいっ?」
「何かあったら、なんでも私たちに相談してね?」
「え?」
「専務もね~、いろいろと思い悩む事がおありかと思うのよ」
「我慢にも、限界がおありでしょうしねぇ」
「外見も振る舞いも、地位も仕事も、あれだけ完璧な方がねぇ」
「今ひとつ、強引になれないのよねぇ」
「そばに居るのが時々辛くなるお気持ち、理解出来る様な気がするわ」
「意外とナイーブな所がおありだし」
「そうね、そして相手は、そんなお気持ちに気づかずに、あっけらかんとしている鈍感な・・・」
「ちょっと!」
「ゴホン!ゴホンゴホン!・・・ねぇ?」
「ねぇ?」


「あのう・・・」
いちいち頷き合いながら、溜め息まじりに話している秘書たちに、つくしはそっと声をかけた。
すると秘書たちは、一様にぬるい目をして、

「通じない想いって、辛いものなのよ」
ぽむ

「青い鳥って、意外と近くにいるものよ」
ぽむ

「牧野さんはもう少し、こう・・・ね」
ぽむ

次々とつくしの肩を叩くと、自分たちの仕事に戻って行った。







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