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つかつく砂吐き推進委員です。ヨロシクお願いいたします。

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専務と私~アラブの王子様 1 ~





大きな窓から見える空は、青く澄んでいる。
その窓から外を見ても、目に入るのは空と飛ぶ鳥くらいの高層階。
道明寺財閥本社ビル、52階の専務室。

その部屋の主である道明寺司は、会議へ出掛けようと、入口近くにある小部屋を覗き込んだ。
「おい、牧野」
「ええぇぇぇ?すっごぉぉぉい!」
「は?」

予想外の反応、というか司の声に反応はしてないのだが。
見ると、つくしがPCに掴みかかる勢いで、画面を凝視している。

「おい」
「え?あ、ごめん」

もう一度声をかけると、慌てたように振り返った。
そして笑う。
「ごめんごめん。今ね、椿お姉さんからメールがきたの。ねえ、来週アラブ連盟の外交機関から会社の見学に来る人がいるって本当?」
「ああ、そう言やそんなのがあったな。それがどーしたよ」
「あのね、その見学に来る人、お姉さんの友達なんだって!」
「へー」
「アラブの王女様なんだって!『日本の事をいろいろ教えてあげてください。一般の人の生活に興味があるそうだから、よろしくね』だって~!いや~!どうしよう~!緊張するっ。あたし、ちゃんとお世話できるかなぁ。って言うか、友達が王女様って!すごーい!さっすがお姉さん。ねえ、どうする?アラブの王女様だよ!ラクダに乗って現れたりして!ラクダ、自動ドアから入れるかなあ」
「心配しなくても、んなもん来ねーよ」
「日本の事を教えるって、何を教えてあげればいいのかなぁ?日本っぽいものって。・・・あたしに頼むって事は、庶民的ってこと?うーん、商店街で買い物・・・?日本っぽいかなぁ・・・微妙。立ち食いソバ・・・なんかおじさんの文化っぽいし。あ!田植体験をしてみるとか?でもあたし、良い田んぼ知らないしなー・・・うー、難しいよね。一般人の文化って言われても」
「ぷっ・・・お前の場合、一般人の文化じゃねーし。ど貧乏の文化だろ」
「あのね、せめて『ど』は取って」
「はははっ」



笑って、司はつくしの隣に立った。
「っつーかお前、ねーちゃんと連絡取ってんのかよ」
そう尋ねると、つくしは遥か上にある司の顔を振り仰ぎ、楽しそうに笑った。
「そーだよ。あたし、スパイなんだからね。コホン。専務の悪行は、全てお姉様に報告させて頂いております」
「は?悪行ってなんだよ」
「西田さんをこき使ってる事とかー、社内の人間を威圧して回ってる事とかー、この前ドアノブもいだ事とかー、あと、パセリを食べない事とか、アサリとシジミの見分けがつかない事とか」
「くだらねぇ」
「あ、そんな事言ったら、またお姉さんに報告するんだからね」


「いーぜ」
笑って見上げたつくしの顔に、影が落ちた。
見開いた目の中、整った顔が傾いて、いきなりアップになっていく。
そして美貌が視界に収まらなくなって、つくしが
「・・・だ」
抗う言葉を紡ごうと口を開いた途端、言葉は途切れた。



「・・・・ん!」
クルクル回る事務椅子の向きを変えられ、背もたれに押しつけられて。
後ろからぐるりと回された腕で、仰向かされて。
柔らかく拘束されて受ける強引なキスは、ひどく甘い。

「んっ・・・ん~~っ」
道明寺、ダメだよ
暴れ出したいつくしの身体も、不安定な姿勢に思うようにならない。

くち・・・と、濡れた音がする。
重なる唇の間で小さく鳴り、響く。
その音すら漏らさぬようにと、キスが深まっていく。
無理な体勢を支えるために、デスクに付いていた司の手。
その腕を掴み、抵抗していたつくしの指先からだんだんと力が抜けていく。
「・・・・っ・・・・ん・・・ん・・」
喉から漏れる声に、甘さが混じる。
 


長いキスの後、司がゆっくりと唇を離した。
そして、ニヤリと笑った。
「これも、姉ちゃんに報告しとけよ。『すっごくラブラブです』ってな」
「・・・・ばっ」
「っと危ねー」

司はつくしの繰り出した右ストレートを難なくかわすと、機嫌良く笑って
「会議行ってくる」
と、専務室を出て行った。
つくしはバタンと閉じたドアに向かって、真っ赤になったまま叫んだ。

「バカっ!」

防音ドアに阻まれたが。





  ***



そして、その日がやってきた。


専務室の入り口近く、つくしのデスクがある小さな部屋から電話の音が聞こえたと思ったら、何秒か後にはつくしが出てきて
「専務、受付までお迎えに行って参ります」
大声で言い残して、張り切って専務室を出て行った。




それから10分後。
専務室のドアがノックされた。

返事をして、迎えるために司が立ち上がると、ドアが開く。
そこから入ってきたのは、つくしと、西田と、通訳らしい中年の男と、SPらしき黒スーツが2人と、それから浅黒い肌をした長身の若い男だった。
真っ黒な髪と瞳が印象的だ。
色彩は日本人と同じなのに、全く別のものだと認識させるのは、その彫りの深い顔立ちと濃い肌の色。
異国の空気ごと連れてきたかのように、熱い太陽と乾いた空気を思わせるその雰囲気。
司と全くタイプが違うとは言え、世の女性たちがうっとりと見惚れるレベルの美形だ。

スーツに包まれた長身が、優雅に歩いてきた。
・・・誰だ?

来るのは女のはずだ。
司が訝しげに眉をひそめると、案内して来たつくしが言った。
「専務、来日される予定の方が体調を崩されて、こちらの方が代わりにいらっしゃったそうです。来られる予定だった王女様の弟さんだそうです」

通訳が若い男――王女の弟なら王子だろうか―――に向かって何か話している。
それを聞き終わると、王子は通訳に軽く頷き司の傍まで歩いて来た。
そして手を差し出し言った。



「こんにちは。わたしのはーれむにはいりませんか?」

満面の笑顔で。




「・・・・は?」
呆気に取られた司が、聞き間違いかと聞き返す。
握手しようと伸ばしかけた手も、思わず軽く引っ込めてしまった。

「わたしのはーれむにはいりませんか?」
王子は、なぜ握手してくれないのかと言う様な顔をして、更にはっきり言った。
更に笑顔で。
「・・・・・・・」
「ぷぷぷぷっ」
その時つくしが吹き出した。

「専務、挨拶みたいですよ」
笑って言う。
「あたしも、受付でお会いした時、同じ事を言われてびっくりしちゃったんですけど、どうもお姉さんに『これが日本の正式な挨拶だ』って教わって来られたらしくて」
「『わたしのはーれむにはいりませんか』ってのが、か?」
「はい。あはは」
「・・・・・あったま痛てぇ」


・・・ったく、どこの国でも姉っつー人種は・・・
溜め息が出そうだ。
なんも知らねー弟に、笑えねぇジョーク仕込んでんじゃねーよ。
つか、体調崩したとか言って、んな馬鹿げた指導できるくらいなら充分元気なんじゃねーの?
軽い頭痛を覚えた司の前で、つくしが王子を見上げて謝っている。
「笑ってしまってすいません。でも『私のハーレムに入りませんか』って言ったら、日本ではプロポーズなので、さすがにびっくりします」
なんて言って笑っている。
不思議そうな顔をしていた王子も、通訳が伝えたつくしの言葉に驚いた顔になり、それから笑顔になった。
言葉は通じないながらも、笑い合う二人。
ビバ、国際交流。
そんな和やかな雰囲気になった瞬間。





   ピキン




後ろで控えていた西田は、その時確かに、空気が音をたてるのを聞いた。





――牧野様・・・



西田は内心溜め息をつく。

いい加減、学習して下さらないものだろうか・・・。
全く懲りない女性だ。
長いつき合い、彼の性格は身に染みて知っているだろうに。
無自覚に彼の嫉妬心を煽って、困った目に合った事も一度や二度ではないはず。
それなのにそうやって、彼の目の前で、他の男性に笑顔を向けるとは。




「西田」
司が、静かに西田を呼んだ。
「はい」
振り返った司を見れば、一応笑顔は作っていた。

こめかみに何か浮かんではいるが。
背中にどす黒いオーラを背負っているが。
3割増しで声が低いが。


――専務、態度に出ております。
念じる西田に向かい、司が言った。
「牧野を秘書室へ」
「わかりました」
「え?」

振り向いたつくしの背を押すようにして、西田が専務室から出ていく。
「え?ちょ・・・西田さん?待って下さい、西田さん、一体・・・・」
慌てたようなつくしの声を残して。


そしてカチャリとドアが閉まる。
司はそれを確認すると、よそ行きの笑顔を浮かべて、アラブからやってきた王子の方へ振り向いた。






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