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つかつく砂吐き推進委員です。ヨロシクお願いいたします。

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専務と私~女子社員の思うところ・前編~




「ヒイイイィィィィィッ!!!」
「どうしたのっ!」


道明寺財閥本社ビル。

5階営業部・営業一課、書類保管棚前。

恐怖マンガ並みの悲鳴を上げた私に、先輩が駆け寄ってきた。
「せ・・・先輩・・・」
「どうしたの、何?」
「先輩先輩先輩」
「なにってば」

私は『先輩』以外の言葉を出す事も出来ずに、書類の保管棚からそのA4の紙の束を取り出し、ぶるぶる震える手で先輩に差し出した。
受け取った先輩は、訝しげな顔をして視線を落として行く。
その顔色が見る見るうちに青くなっていった。

「こ・・・これ・・・どこにあったの・・・・」
「下に・・・下の段に落ちてて・・・」

ヨロ・・・と、眩暈を起こしたように先輩が棚に縋る。
それから手で口を押さえると、さっきの私と同じ音階で悲鳴を上げた。

「イヤアアアアアァァァァァッ!!!」


先輩の手にした書類には、ピンクのポストイットが貼りついている。
そこに書かれているメモは
『10月24日 10時の会議まで
清書30枚。300枚ずつコピーし、冊子に 左側2か所綴じ  9/31川上』
・・・・・・。

今日は10月23日・・・・18時・・・。
10月24日って、明日のことだ。
ちなみに川上さんと言うのは、先々週退職した営業部の人だ。
実家で漁を営むお父様の腰痛が悪化して、家業を継ぐために退職して行った川上さん。
『これからは海の男で頑張るから』
キラッ!

「川上さん・・・・」
私は呆然と呟いた。

「あいつ引き継ぎ忘れやがったな・・・・」
先輩が、聞いた事もないような低い声を出した。

「どうしよう・・・・先輩どうしましょう」
「PC開けて」
「え?」
「明日の10時、大人数の会議が入ってるか確認して。もしかしたら、予定が変更になって使わなくなった書類かもしれないじゃないの」
「は、はい!」
先輩の言葉に一筋の光を見た気分になった私は、急いで指示通りにした。


そして1分後、後ろから覗きこんでいた先輩はがっくりと肩を落とし、私は半ベソをかく。
「・・・入ってたね・・・280人・・・」
「・・・どうしましょう」
「どうもこうもないわよ」
顔を上げた先輩は、何かをふっ切ったかのようにきっぱりと言った。
「やるしかないわ、2人で」
「ギャーッ!」
「清書30枚」
「ギャーッ!」
「300枚コピーして」
「ギャーッ!」
「左側2か所綴じ、冊子300部」
「ギャーッ!・・・・って言うか、まままま間に合うのかなあ?他所に応援頼んじゃいけませんか?」
「居ないわよ、誰も。今日は課長以上の役職付きは、全員2階で研修中。だから社内全員、残業なしで退社するようにって通達が来てたじゃないの」
「ああ!」
「だからね」
先輩は、後ろにオドロオドロしいトーンを背負って囁いた。
「やるしかないのよ・・・2人で・・・言っておくけど、命令なしのサービス残業だからね。残業許可する管理職が居ないんだもの。残業代つかないからね」
「ど・・・どれくらいかかるでしょうね・・・・」
「夜明け・・・見るかもね・・・」
「イヤだ~!イヤです~!」
「やるしかないのよ」
先輩は、がしっと私の肩を掴んで言った。




ちくしょー!川上っ!クソバカヤローっ!
引き継ぎ忘れてんじゃねーよ!
『海の男で頑張るから』じゃねーよ!
キラッ!じゃねーよ!
漁に出て冷たい荒波ザバザバかぶれっ!
漁船、岩にぶつけろっ!
船から落ちて、潮に流されて、打ち寄せられた島で無人島生活しろっ!!
とにかくなんか、バチが当たれ~~~~っ!!!

私は心の中で川上(もう呼び捨てでいいですよね)を罵りながら、半分に分けられた書類の片方を持って自分のPCの前に座った。




カタカタカタカタカタ・・・・タンッ!
カタカタカタカタカタ・・・・

静まり返ったオフィスに、先輩と私が叩くキーの音だけが響いていく。
紙面にびっしりと打たれた活字は、ところどころ手書きの朱で修正が入っていて、それを見落とさずに打っていくだけで結構神経にくるのに、なにこれグラフまで入ってんじゃん。
グラフ、いちから作れって言う事?
めんどくさいのよ!時間かかるのよ!
CD一緒に置いとけよ!
ああ、もう文句しか出てこない。

カタカタと、ただキーボードを打って数十分。
このペースで果たして間に合うのかなあと、暗い気持ちになった時、突然ドアが開いた。

「あ!良かった!誰か残ってた!」
その元気な声に、暗い空気が一気に吹き飛ばされる。

「お疲れ様ですー」

専務の第一秘書・西田さんの、補佐の牧野さんが、ドアからぴょんと顔を出して笑っていた。



「牧野さん」
先輩が立ち上がる。
「どうしたの?」

「資料を返しに伺ったんです。誰も居ないかもと思ったけど、誰か居たらお願いしようと思って」
私たちのデスクの近くまで来た牧野さんは、手に持っていたファイルを目の高さにあげて示した。
先輩より戸口に近いところにいた私は、書類を受け取るために立ち上がった。



・・・あれ?

そんなに小さくないんだな、と、思った。
155センチの私が少し見上げるくらい。
すごく小柄な人っていうイメージがあったから、不思議な感じがした。
でも、なんで小さいって思ってたのかな・・・と、考えてすぐに気付く。

いつも、専務と一緒のところを見ているからだ。


入社して3カ月目の私は、あまり牧野さんと面識がない。
専務の第一秘書の西田さんの補佐の牧野さん。
他の秘書室の人は、滅多に下に降りてくることはないけど、牧野さんは時々社内で専務と一緒に歩いている姿を見る。
あと、忙しい時手伝いに来てくれた牧野さんを、専務が呼びにみえたりとか。
それで、長身の専務の肩までも届かない牧野さんばかりを見てるから、小さい人だと思い込んでいたんだ。

うん。
発見に、ひとりで頷く私を見て不思議そうな顔をして。
それから笑って、牧野さんはファイルを差し出した。
「ありがとうございました。助かりました」
「わざわざありがとうございます」
軽く頭を下げて、ファイルを受け取った私の横から、牧野さんが後ろのPCを見て不思議そうな声を出した。
「あれ?残業ですか?今日は、役付きの研修で、全部署残業なしじゃなかったですか?」
「あ、ええ・・・そうなんですけど・・・」
言葉を濁した私の後ろで、ガタンと音がした。
「それが聞いてよ~、牧野さ~ん!」
先輩が、席を立ってこっちにくる。
そして、つい先ほど発覚した、泣きが入りそうな出来事を一気に話しだした。




「・・うわ~・・・」
「またサービス残業なのが頭にくるのよ~~~!」
「うわ~うわ~。でも、今日見つけて良かったですよ。間に合ううちに見つかって」
牧野さんが言った。
先輩は、盛大に文句を言ってスッキリしたのか、興奮して振り回していた拳を緩め、両方の腰にあてた。
そして溜め息をひとつつくと、
「そうよ」
笑って牧野さんに言った。
「今日、見つけられて良かったのよ、うん。もし、明日まで見つからなくて、会議の資料がない、なんて事になったら大変だもの。わかってたんだけど、あまりの事に誰かに愚痴りたくて。ごめんね、牧野さん、あたし一人で興奮してベラベラ喋って」
私からもスイマセン、牧野さん。
先輩も、下っ端すぎる私相手じゃ愚痴もこぼせなかったんだろうと、今、気づいた。
その分牧野さんに、お時間とらせてしまいました。

「いいえ~」
牧野さんが笑った。そして胸をドンと叩いた。
「あたしも勿論手伝いますよ」
「いいわよ。うちの部署のミスだもん。何時までかかるかわからないし。愚痴言ったらスッキリしたし」
「ええ~?本当にいいんですか~?」
牧野さんが、ニンマリと口の端を上げる。。
そして秘密を打ち明ける子供みたいな顔をして、手を口元にもっていった。
「あたし、すっごい情報もってるんですよ~?」
「え?な・・・なに?」
つられて近づいた私と先輩に、内緒話の声量で囁く。

「営業5課の女子社員、全8名が、只今社内で勉強会中」


「・・・・ま・・・・マジすか」
思わず素に戻って尋ねてしまった私に、牧野さんは頷いた。
「きっと声かけたら手伝ってくれると思いますよ?どうですか?」
「そ・・・それはもう・・・」
先輩の声も上ずっている。
8人だって!
私と先輩、2人でやろうとしていたこの仕事。
単純に考えても8人増えれば10人で、5倍の速さで進むじゃないですか!
ああ、なんだかもう、牧野さんが輝いて見える~!
うっとりする私の横で、先輩がハッと気づいたように言った。
「で、でも、5課の人たちが残ってたって、他部署の業務を勝手に手伝ったら、後から何らかの処分とか・・・だって、上の命令なしでやる事になるし、それにやっぱりサービス残業っていう事になるから悪いわよ」
「その辺は当てがあるので、気にせずどうぞ。何とかなります。・・・という事で」
牧野さんは、既にドアの方へ身体を向けている。
そのまま首を傾けた。
「5課の皆さんに、お願いしてきてもいいですね?」
言葉が出せずに何度も頷く私たちに、牧野さんも笑って頷くと、ドアから出て行った。


「・・・・・・」
「・・・・・・」

残された私たちは、なんだか信じられないような気持で顔を見合わせる。
そう思うのはまだ早いと知っているのに、なんだか安心したというか、なんというか。
さっきまでの『どうしよう~~~!!』と、泣きそうだった気持ちが消えて。
期待にドキドキしている。

その時、カチャ、っとドアが開いた。
私と先輩は、牧野さんが戻ってきたのかとそちらを振り返り
「きゃ・・・」
悲鳴を上げた。

「せ・・・専務・・・」
先輩がすごい勢いで頭を下げた。
私も慌てて頭を下げる。
そのまま固まる私たちに、上から低い声が降って来た。
「ここに、牧野来なかったか?」
「いい居ました。さっきまで居たんですけど、いいいい今、営業5課の方へ・・・」
「5課?」
不審気な声。
「あの、ええと・・ちょっとトラブルが、発生いたしまして・・・」

私は、先輩の説明を聞いている道明寺専務から目が離せないままに、自分の指先が小さく震えだしたのを感じた。

すっごい美形。
遠目からでも、格好いいな~と思っていたけど、こんな近くで見ると格好いいなんてもんじゃない。
直視するのが恥ずかしいくらいの整った顔立ち。
美術の教科書で見たような、完璧なプロポーション。
周りの空気までキラキラと輝いて見えるような、そのオーラ。
・・・これさ、ヤバいよホントに。
何でこんな人が、会社の重役なんかやってんの?
モデルか俳優か、そっちの方に行くべきじゃないの?
うわー。
美形すぎて目がチカチカするわー、そして自分が勝手に赤面していくわー。
だけど、指先の震えはそのせいじゃない。

先輩は、つっかえながら専務に状況を話している。
それを無表情に聞いていた専務が、チラ、とこっちを見た。

ビクッ!!
こ・・・・
怖・・・・っ!!!

専務って怖い。専務って怖い。専務って怖い。
彫刻のように整って、彫刻のように無表情な美貌。
その美しい双眸からの視線は、恐ろしいほどに鋭い。
指先の震えが全身に伝わって、いやもう泣きそうマジで、と思った。
その時。


「あれ?専務?」
牧野さんが帰って来た。

「どうしたんですか?営業部に何か用事ありました?あったなら、言ってくれれば良かったのに。ついでにあたしが・・・」
「用があって来た訳じゃねーよ。お前を回収しに来たんだろ。お前、資料返すくらいでどんだけ時間くってんだよ」

あ!専務の目が優しくなった!

「回収って」
「あんま遅っせーから、また何か厄介事、嗅ぎつけたかと思って来てみれば」

専務の声が柔らかくなった!!

「ちょっと専務、あたしがトラブル探して回ってるような言い方、やめてもらえます?」
「まったく、うちの社員も親切なヤツばっかだよな。行くとこ行くとこで、お前の大好きな厄介事準備して、待っててくれてんだもんな」

専務が笑ったっ!!
うっわ、なんか。
なんか・・・。
さっきまでと全然違う~。

「専務っ!」
楽しそうに笑う専務を、腰に手をあてて上に向かって叱りつける(ようにしか見えない)牧野さん。
それはまるで、手の平に肉を載せてライオンの口元にもっていくような。
開いたワニの口の中に、頭を突っ込むような。
例えが解りづらいかも知れないけれど、つまりそれくらいインパクトのある光景だ。

気がつけば、あたしと先輩だけでなく、オフィスの中には5課の人たちも入って来ていて、専務と牧野さんの遣り取りを固まって見ている。
その視線を感じたのか、牧野さんはハッとなって回りを見回した。

「は!こんな事してる場合じゃなかった!専務、状況はお聞きになったと思うんですけど、そういう訳でこれからここにいる全員、残業になりますので」
牧野さんはビシッと気をつけをして、専務を見上げて言った。
「全員分の残業申請書に許可印お願いします」
「ままままま?」
「牧野さん」
「牧野さん!」
ボタボタと、周りの女子社員たちが手に持ったモノを取り落とす音が続いた。
まさか専務にそんな事を頼むなんて!
私を含めた全員が青くなってざわめいていく。
「残業申請書?」
不審げな表情になった専務に、恐怖を感じてビリビリと空気が緊張していく中、しかし私たちの耳に聞こえてきたのは、相変わらずの柔らかな声だった。

「別にいーけど、俺、多分それやったことねぇ」
そりゃそーでしょうともっ!
重役ですもの。残業申請書なんて、見たこともないに違いない。

「ああ、そうですよね」
牧野さんはポンと手を打つと、こっちを振り返った。
「すいませんけど、残業申請書を、えーと、10枚ですね。ください」
「は、はいっ」
私が大慌てで書類を出して渡すと、牧野さんはそれを専務に見せて指をさしながら
「えーと、ここに時間を記入してもらって、それで・・・」
と、説明し始める。
専務はその手元をじっと・・・・ん?
手元見てなくない?
その視線の角度は・・・牧野さんの顔・・・見てる?

「あ、でも、専務の印鑑上でしたね」
牧野さんがパッと顔を上げると、専務と視線が合った。
専務の口元が、美しく弧を描いた。
なのに牧野さんは、それに全然気づかない風で、私たちを振り返って
「すいません、ちょっと専務室に行って来ますので、先に始めててもらえますか?えーと・・・PC室でいいのかな。マシン台数あるし、あそこのコピー機が一番早いですもんね。では後から行きますので、一旦失礼~」
そう言って、専務と一緒に出て行った。





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