FC2ブログ

つかつく砂吐き推進委員です。ヨロシクお願いいたします。

休日 11の前編




朝起きて。

顔洗ってご飯食べて、パジャマを脱いで洗濯して掃除して、スーパーのチラシチェックして、それでもまだ早くて。
こんな早く行ったら、すっごい楽しみにしてたみたいじゃんあたし、とかブツブツ言って、意味もなくテーブル3回も拭いちゃって。
ソワソワして、時間つぶす事ももう無くなっちゃって、そろそろいいかとアパートを出て、電車に乗って彼の家へ向かう。

日曜日。




「こんにちは~」
「こんにちは、牧野様、いらっしゃいませ」
「牧野様、いらっしゃいませ」

顔なじみのメイドさんが迎えてくれる、道明寺邸のエントランス。
いつも通りにピカピカだけど、なんだかいつもと違う雰囲気。
その原因は・・・?
「あのう・・・」
首を傾げて様子を窺うあたしに、メイドさんはにっこりと笑う。
その頭にほつれ毛。
「なんだか皆さん、全体的にお疲れのような気がするんですが・・・?」
「まあ!そんな事ございませんよ!ほほほほほ。そんな風に見えてしまうなんて、私どもの自己管理が至らない証拠ですね。申し訳ありません。気をつけます」
「いえ、そうじゃなく」
耳を澄ませてよ~く聞くと、遥か遠くの喧騒が聞こえる。

『・・・それと、掃除どこまで行った?』
『東棟が終わりです~~!』
『南は?』
『まだです、でもその前に、坊ちゃんのお部屋用に庭からバラを切って来ないと。それから、廊下のランプを取り換えておくようにと』
『ああああああもう、この忙しい時に!牧野様がいらっしゃるからってソワソワされて、いろいろ言いつけるんだから~~~!』
『ききき聞こえますよ~~っ!』

黙って声が聞こえる方向を指さすあたしに、メイドさんは不透明な笑みを浮かべて
「も・・・申し訳ございません・・・」
と言った。
「あ、いいえ、なんだか、あたしが来るって言ったせいで忙しいみたいで・・・」
「あ!いいえ、違うんです!あの、いま使用人の間で風邪が流行っていて、欠勤が多くて・・・それで、いつもの半分くらいしか勤務者が出ないので仕事が上手く回せなくて・・・。大変、失礼な事をお聞かせしてしまいました。申し訳ありませんでした!」
「わー!頭を下げないでください!こちらこそ、スイマセン!お忙しい時にお邪魔します!なるべく仕事を増やさないよう心がけます!道明寺にも、皆さんの手を煩わせないように言っておきますので」
「とんでもない!牧野様、おやめ下さい」
「あ、何なら、あたし掃除とか手伝いますよ!昔ここでメイドしてた事もあるし、なんとなく手順も覚えてるし」
「きゃーっ!とんでもありません~~~~~~っ!!!」

「いいじゃないか」

揉めるあたし達の後ろから、カツンという杖の響きと共に小さな影が現れた。
「センパイ!」
「こんにちは、お邪魔してます」
「この子の説明通り、人手が足りなくて大変なんだ。まさかあんたに床掃除させる訳にはいかないけど、坊ちゃんの部屋の事だけでもやってくれると助かるけどね」
「セ・・センパイ~~ッ?」
胸の前で手を振り絞って焦るメイドさん。
子供さんもいる年齢のメイドさんを、『この子』扱いして、またそれがなんの違和感もない道明寺邸の重鎮は、曲がった腰から顔を上げて、あたしににっこり笑った。
「任せて下さい!」
「じゃあ、一応制服に着替えてもらおうかね。汚れてもいいように」
「は~い」
そしてあたしはセンパイの後に付いて、奥へと向かった。





制服を用意してくるからちょっと待ってな、と言われて案内された客室。
塵ひとつないその部屋で、じっと待つ。
実際、大変なんだ、ハウスキープっていうのは。
いくらこのお邸の殆んどが空き部屋だからって、全く手を入れない訳にはいかない。
ほら、あたしが今通されたこの客室だって、ついさっきまで使う予定なんか全然なかったのに、ピカピカに整えられているじゃないか。

ジーンと感動していると、ドアの向こうから話し声が近づいてきた。
センパイと、もう一人。

『でもセンパイ、それじゃあんまり・・・』
『緊急避難措置ってやつだよ。いまこの邸は普通の状態じゃないんだから』
『それはそうですけど・・・・なんだか、牧野様おひとりを大変な目にあわせるようで・・・』
『だから・・・ぼそぼそ・・・・』
『でも・・・ぼそぼそ』


ん?とドアを注視していると、それはすぐに開いて、センパイとさっきのメイドさんが部屋に入って来た。
「制服も、何回か変わってるんだけどね」
センパイの合図で、後ろに控えていたメイドさんが、持っていた物をあたしに手渡してくれる。
「うっわ、懐かしい~~~っ!」
それは正に、あたしが高校生の時、ここで着ていたメイド服だった。
「今の型の予備がちょうどなくてね、悪いけどそれを着とくれ。古い型だけど新品だから」
「あ、はい。わー、ホント懐かしい。これ着てたんですよねー、朝は5時起きで床磨きしてねー」
「着方はわかるだろ?じゃあ頼んだよ、掃除のワゴンは前の場所にあるし、リネン類の棚も変えてないはずだから」
「はーい!」
と、あたしは元気に返事をして懐かしのメイドの制服に着替え、お掃除ワゴンと換えシーツを持って道明寺の部屋へ向かった。






コン・コン・コン
「どーみょーじー。おーはーよー」

ノックと共にドアを開け、お掃除ワゴンを連れて入った彼の部屋。
道明寺は向こうを向いてソファーに掛けている。
が。

「おう」

コホン、なんて咳払いをして振り返った彼は

「・・・・・・・は?」

口を開けて固まった。
爆笑したい口元をギュウウッと引き締め、真面目な顔をして彼の前に進む。
「お掃除に参りました」
すまして言ってやるもヤツの反応はなく、固まったまま。
その丸くした目と、目を合わせたら、もうたまらなくなって吹き出した。
「ぶっ・・・!カオ!道明寺、そのカオ!あははははっ」
「てっ・・・・」
「あははははは!ん?『て』?」
「てめ、何してんだ・・・・」
「えーと、アパートの床が抜けたのでここに置いて下さい。代わりに働かせていただきます」
「おっ・・・おま」
「なんてねー」
懐かしすぎる設定に、また笑いがこみあげてくる。


「人手が足りないんだって。風邪が流行ってて欠勤が多くて、手が回らないって。ホント大変だよねー、やる事は多いし坊ちゃんはわがままばっかり言って仕事増やすし」
手を動かしながら笑って道明寺を見るけれど、まだ固まったまま何の反応もしない。
「だからあたし、手伝おうと思って。センパイもいいって言ってくれて、汚れるといけないからってコレ、制服貸してくれてねー、あ、やだ、ここシミになってる。なんだろ、花粉かな。やだ、花粉って取れないんだよねぇ・・・・ねぇ道明寺?」
「・・・・・」
「そんなに目、開けてると虫が入るよ」

あははは、と笑いながら、あたしは掃除を始めた。





何年も経ってるのに結構手順とか覚えてるもんだ。
掃除を済ませて、さて次はシーツの交換だ、とベッドへ向かう。
丁寧に織り込んであるフラットのシーツは、道明寺が使った後でも殆んど皺がなくキレイ。
さすが道明寺家のメイドの仕事。
あたしも習ったんだけど、結局最後まで完璧に出来なかったんだよね~と、織り込んであるシーツの端を掴んでベッドから剥がそうとぎゅっと握った瞬間。

「!!!!!」
悲鳴を上げる暇もなく、後ろから羽交い絞めにされた。

「!!!・・・・・・!ちょ・・・あ・・・っ」
続けて落ちてきた深いキス。
ダメだと叫ぼうと開けた口に、強引に舌が入りこんで奥へ進んで来た。

一気に意識が掻き回される。
あたしは自分の身体がどういう体勢になっているのかもわからないまま、ただきつく抱きしめられて、その力に抗ってバタバタ暴れた。暴れようとした。
だけど指が宙を掴むばかりで、道明寺はびくともしない。
乱暴の一歩手前の力であたしの身体を扱う腕。
それがもどかしげにあたしの背中にかかり、そして身体を持ち上げた。
またキスが深まる。
宙に浮いた足が心細くて、手に触った道明寺のシャツにしがみつく。
ふわ・・・と、馴染んだ香りがした。


そして気がつけば背中を大きな手が這いまわっていて、キャミソールの下から入ってこようとしている。
くっそぅ、無駄に手際が良くなりやがって。
ファスナーを下まで下ろされた紺サージの制服は、その重さで下に滑り落ちようとしていて、あたしは慌てて道明寺の腕の中もがいた。
「・・・・っや・・っ!」
すると意外にも道明寺はパッと力を抜き、あたしは反動で彼の腕の中から跳び出した。
「え・・・あ、ちょっと・・危・・わわわ」

勢い良く跳び出した足が何かに引っかかる。
ぼふっ
ベッドだ、と思った時にはあたしは勢い良く倒れ込んでシーツに埋まった。
そしてすぐに道明寺が覆い被さって来た。
「やーっ!きゃーっ!道明寺っ!だめっ!やめっ!」


この男が、こんな風にいきなり襲いかかって来るのは実はそんなに珍しい事じゃない。
なんか知らないけど、急にどぁーっと何かが溢れ出るんだろう(野獣病の発作か?)。
野性の赴くまま。
衝動が走るまま。
わがまま気まま為すがまま。
前置きもなく、突然押し倒されるなんて日常茶飯事。
そんなのと何年も付き合ってるんだもん、こんな時の対処くらいとっくに習得済みだわよ。慣れっこだわよ。隙があればいつでも掛かってこいだわよ。

あたしはどの手で逃げ出そうかと、頭の中で忙しく考える。
そして対策を決めると叫び出した。
「痛い、道明寺」
「あ?」
「痛い、痛い痛い痛い痛い」
「どうした?」
「痛い痛い痛い痛い」
「牧野?」
「痛い」

ポイントは痛いしか言わない事だ。
思った通り、道明寺はあたしに乗っかっていた身体を浮かせて、どこが痛いのかという風に視線を彷徨わせる。
その隙に。



くるりとうつ伏せになって、一気に逃げるのだ!






              11の後編へ