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つかつく砂吐き推進委員です。ヨロシクお願いいたします。

遠恋時代~前編~

「すごい・・・・・すごい降ってるよ、真っ白」
「わぁ・・・・・すごい」
「東京とは別世界ですねー」

大きなガラス窓の外は一面の雪景色。

真っ黒な空から、ライティングされた庭へ。まるで羽みたいにふわふわと落ち続ける雪。
照明を落とした渡り廊下で、滋と桜子と優紀とつくし。
4人は言葉もなくして窓の外を眺める。
「きれい・・・・」
うっとりと、誰かが呟く。
と、滋が
「あっ」
と、声を出した。
「あそこ、ほら、フロント棟の横のとこ、あそこの窪んだとこって、つくしが滑って突っ込んだ跡だよね」
「・・・・・あ」
「まだ凹んでる、あはははは」
「・・・・ぷっ!」
「くくくくっ」
「雪は全てを覆い隠・・・・・さない・・・ぷ・・・・く・・くく」
「ちょっと笑わないっ!なによ、皆だって滑ってたくせにっ」
「でも転んでない」
「植え込み凹ませてない」
「うううぅぅぅぅううう」
「あははは。でも、ほんとツルツルだもんね」
「だよね、優紀!殆んどスケートリンクだよね」
「なのに、旅館の人とか普通に歩いてるよね、すごいよね」
「なにが違うのかな」
「雪の環境に対応して、進化してるんじゃないの?みんな、すごいバランス感覚の持ち主とか」
「足の裏がスパイク化してるとか?」
「実はちょっと浮いてるとか?」
「ドラえもん?あはははは」
「ね、冷えません?」
「あ、そうだね、行こうか」



カラ・・・
格子戸を開けると、新しい畳の匂いがする。
20畳くらいのその部屋は、旅館の一棟の中の一室。
『全室離れの一棟建てで露天風呂付き』なんて、お嬢様2人には当たり前かもしれないけれど、庶民2人は『ゼイタク~~』と溜め息を漏らした。
その広い部屋には、きゃあきゃあと笑い声と、話し声が途切れずに響く。




「ちょっと、動かないで先輩」
「さ・・・・・桜子?」
「なんですか?」
「なんでこんな事になってるのかな?」
「なんでって・・・面白いからですよ」
「面白いって・・・」
「すごい、すーっと入っていくわ~。まるで砂漠が水を吸うようだわ~」
「砂漠ってね、ちょっとあんた」
「黙ってて下さいって」
「・・・・・・・・」

「大体ね」
ピタピタと、つくしの目の下に何かを塗りつけながら桜子が言う。
「何ですか、それ。お風呂上がりのスキンケアがボトル2個なんてあり得ないっていうんですよ」
「え~?何が悪いのよ。化粧水と乳液。充分じゃん普通じゃん」
「普段そんな事してるからだわ。ほら見て。この吸収率」
「あはははは」
「優紀、笑わない」
「そうよ、次は優紀さんですからね」
「えっ」
「あのね、美容オタクのあんたじゃあるまいし、要らないの、そんなに。顔は一個しかないのに、なんでこんな10種類以上もイロイロ塗んなきゃいけないのよ。何なの、この、まつ毛トリートメントって。そんな、両目で100本もない様なものに、気ぃ遣わなくていいんだって!」
「飽きない!動かない!人の事オタク呼ばわりしない!じゃあほら、触ってみて、全然違うでしょ」
「えー、そんな急に変わるわけ・・・・・・わー・・・ぷにぷに・・・」
「ねー?」
「わー・・・」
「普段粗末にされてると、効果が良く出ますよね」
「粗末って言うな」
「つくしは肌、綺麗だよねぇ」
「うん、綺麗だよね」
「それに甘えてちゃダメなの!衰えるのなんて一瞬なんだから!今からいろいろケアしておかないと」
「すごーい、全然違うー」
「目、つぶって先輩。眉もやるから」
「は・・・はい」

すっかり桜子のいいように弄くり回されているつくしを、いいスケープゴートだと思っている訳でもないだろうが、滋と優紀の声は至って呑気だ。

「でもお風呂良かったね~」
「ね~。つるつる~」
「すべすべ~」
「露天良かったよね~!すぐそこが雪って、すごい不思議な感じ~!」
「つくしが12月生まれで良かった。雪景色、温泉、旅館、最高じゃない?」
笑って振り向く優紀に、つくしも、動くなと注意されたので目だけ開けて答える。
「うん、あたしも冬生まれで良かったと思った。あははは、みんな、今年もありがとう。この年末の忙しい時期に」
「プレゼント代わりに旅行って、恒例になっちゃいましたよね」
「うん、でもきっと、今年で終わりだよね」
「そうですねぇ・・・」
「なんで?」
「なんでって、来年は司が居るもん。誕生日は司と過ごすでしょ」
「え?あ・ああ・・・そ・・・そう?・・・かな」
「そうだよ」
「そうでしょ?」
「当然ですよ」
「あ、はい」

何となく畏まって答えると、滋が突然、座卓をドンと叩いた。

「司が渡米して4年目・・・結局4年間、つくしの誕生日には一回も帰って来なかったよね、司」
「うん、なんかこの時期になると出張が重なるみたいで、今もどこだっけ・・・・・ウラ・・・バ・・・う~ん・・・ウラン・・・ウラ・・・・えーと、とにかく外国」
「ウランバートルですか?」
「あ、それ、それそれ、あはは」
「あはは、じゃナイッ!」

ガンッ!
「ヒッ」

滋がもう一度、手を振りおろした。
素手ではあり得ない音に、残る3人はビクッとなって身を引いた。

「あははじゃないよ、つくし!あんたがそんな、笑って許すから、司だってヘーキで『悪りぃ、オレ出張』くらいで済ませちゃうんじゃないの!」
「そ、そんな、シゲルさん、聞いてたかのように・・・」
「あら、でもどうせそんな感じなんでしょ。それで先輩だって『あ、そう、それなら仕方ないねー』くらいで済ませちゃうんでしょ」
「そそそんな事ないって」
「あ、でも、あたしその電話聞いてたけどそんな感」
「優紀っ!」
「・・・もごもごもごもご」
「やっぱりね・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「薄い・・・・薄過ぎるわ・・・・」
「・・・・・・・・・・・」
「どうしたの?滋さん、ふ、震えてるけど・・・?」
「・・・・つくしは間違ってるっ!!」

ガンッガンッ、ガンガンガンガンッ

「し、シゲルさん?」
「間違ってる!いっくら忙しいからって、NY行ってから誕生日に一回も帰って来ないって、どーゆー事よ?誕生日だよ?た・ん・じょ・う・び!女子なら、許すな!あたしと仕事とどっちが大事なの、くらい言ってやれ!誕生日、会いに来なきゃ別れてやるくらい言ってやれ!」
「いや、それもどうかと思うけど・・・」
「先輩のキャラじゃないですよね」
「淋しいじゃん。淋しいよね?つくし」
「え?いや、あの・・・もう4年目だし慣れたっていうか、まあ。えー、電話・・・とかしてるし、時々会えるし・・・・仕方ない事だから」


「ウサギは淋しいと死んじゃうんだよっ!」

「ってシゲルさん、全然聞いてないよ!ちょっと、こっち見て下さいよっ」
「そんなにお酒飲んでたっけ?」
「お風呂に入ったから回ったのかしら」

「釣った魚に餌やらないと死んじゃうんだよっ!」

「滋さん何かあったの?」
「あれじゃないですか?この前、クリスマスを目前に彼氏と別れたから」
「ああ、あの時も大変だったよねぇ」
「傷心なんだねぇ」

「ペンギンはお腹を蹴ると死んじゃうんだよ!」

「ん?」
「ん?ペンギン?」
「なんでペンギン?」

「キリンは500メートル全力疾走すると死んじゃうんだよ!」

「・・・なんか段々、豆知識披露みたいになってきた」
「なんでそんな事に詳しいのかしら。相変わらず滋さんの頭の中ってわからないわ~」
「あはははは」
「ね、フロントにルームサービス頼むけど何か要ります?」
「もうちょっと呑む?」
「滋さんはもう呑まない方がいいんじゃないかなぁ」
「いざとなったら、うんと呑ませて潰しましょ」
「わ、桜子さん、悪い顔になってる」
「桜子、黒いの漏れてるよ」
「うるさいわね。えーと、乾杯用のシャンパンと、何か適当につまむもの」
「この純和室でシャンパン・・・」
「あはははは」
「あとミニバーで足りるかしら」

「ちょっと誰も聞いてないじゃないのよ~~~っ!!」
「ぎゃっ、ゆっ・・揺すらないで、シゲッ・・・・ごふ」
「きゃー!つくしー!」

ゴンッ!

「いっ・・・・・・あ、頭・・・・」
「つくし~~~っ!」
「し・・・シゲルさん、い、痛い・・・・」
「ワガママ言いなよ、つくし~~~っ」
「なにが~っ!なにを~っ!」
「司なんてあの通り、情緒置き去りにして生まれて来た単純バカなんだから、言わなきゃ分かんないんだから。淋しいとか、会いたいとか、辛いとかっ!」
「シゲルさん・・・」
「言わないとっ!どれだけ一人で我慢するのよ、あんたはっ!淋しいくせに、辛いくせに意地っ張りで、あたしたちには弱音ひとつ吐かないでさぁ!あたしたちに言えないんなら、司に全部ぶつけなよ!」
そのまま、ぎゅうぎゅう抱きついてきた滋を抱き返して、つくしは思わず声を詰まらせた。
「シゲルさん・・・」
そして何度かひくつく深呼吸をして、ようやく言った。


「淋しく・・・・・なんてなかったよ」
「つくし・・・」
「そんな暇なかったよ。いっつも皆が見ててくれて、気にしてくれて、笑わせてくれてさ、淋しいと思う暇なんてなかった」
「つくしぃ・・・・」
「ありがとう。・・・・・本当に感謝してる。今まで、笑って過ごせたのは皆のお陰だと思ってる」
「・・・ダメだよ、つくし・・・」
「え?」
「あたし泣いちゃうじゃん」

つくしにしがみ付いて、泣き笑いになった滋を見て、後ろに居た優紀と桜子もじわりと涙ぐむ。
急に桜子が立ちあがり格子戸を開けた。
廊下に出て行きながら、ほんの僅か、揺れる声で精一杯明るく言う。
「ル、ルームサービス、頼んだの遅いですね。下から・・・」
それが急に途切れ、そして沈黙。


「桜子さん?」
小柄な身体が、ゆっくりと振り向いた。
そこには、いつも通りの完璧な微笑。

「牧野先輩」
「え?」
「わたし、フロント棟のカウンターに忘れ物、しちゃったみたいなんですよね」
「え?何?なに忘れたの?」
「うーん、ちょっと説明が難しいんですけど・・・・行けばすぐわかるんですけど。三条って言えば」
「うん」
「絶対必要なんですけど、この雪じゃ・・・ほら、わたしあまり身体が丈夫じゃないし」
「あんたが身体弱い設定なんて、聞いたことないけど」
こほこほ・・・と、わざとらしく咳をし出した桜子に、あははと笑ってつくしが起き上った。
「いいよ。行ってきてあげる。すぐわかるんでしょ」
「すいません。お願いします」

はいコート、はい手袋、ブーツ履いて行って下さいね。
うんありがと、しかし浴衣にコートにブーツってすごい事になってるんだけど。
大丈夫、先輩いつもそんなセンスですから。
なんだとぉ、あんた人にお使い頼んどいてその態度って・・・
じゃあ、お願いしますね~!

バタバタと、追い立てるようにつくしを送りだした桜子は、食い入るように窓の外を見つめ。
きょとんとして見ていた優紀と滋はおずおずと声をかける。
「・・・・桜子?」

「・・・・・見間違いじゃないと思うの」
くるりと振り返って2人を見た桜子は、張りつめた表情で言った。
「あんな人、他にいないもの。絶対、見間違いじゃない!」
「なに?桜子なに言ってんの?」
「こっち・・・こっちに来て下さい」
桜子が駆け寄ったのは、さっき雪を見た大きな窓。
「見てて」
そこに3人、額をくっつけるようにして外を見る。


ふわり、ふわりと羽のように大きい雪が降っている。
ゆるい坂を、恐る恐る下っていくつくしが見えた。
「あ~、危ないよ~。ツルツルじゃない。桜子、忘れ物なんて届けてもらえば良かったのに~」
「あ、転んだ」
「立った」
「また転んだ」





「・・・・・・・・・・え・・・?」

「ねぇ、あれって・・・・・」
「ね?そうでしょ?」


「ま・・・っさかぁ・・・」
「うそ・・・・」
「ね!そうよね!」



フロント棟の自動ドアが開く。
中から、溢れ出した光と一緒に出て来たのは、背の高い影。
特徴のある髪型は昔と変わらないが、見分けられるのはそんなところじゃない。
遠目からでもはっきりとわかる、他者と彼を区別するのはその強烈なオーラ。
前を開けた長いコートを翻して立つ長身は、顔を上げた。
その視線の10メートル先には、つくしが下ばかり見つめてそろそろと歩いている。

と。

つくしが弾かれたように顔を上げた。
そして動きを止めた。


「・・・・・・道明寺さんだ」

呆然と、優紀が呟く。
その横では、桜子と滋が、ゆっくり笑顔になっていく。
「行け、つくし」
「行きなさい」
ぎゅうっと、手を握りしめて囁く言葉は祈りにも似ていて。
ほんの僅か震えたそれが窓ガラスにぶつかった時。



時間が動き出す。


つくしが、夢見るように歩き出した。
視線の先には、ゆっくりと腕を上げていく背の高い恋人。
電話越しじゃない、直接鼓膜を震わす声が低く優しく、耳に届いた。


「牧野」


「・・・・・道明寺・・・?え・・・・なんで・・・・」


「来い」


「道明寺?・・・・・・・道明寺っ!!」



走り出す。
羽雪降る中。


目を丸くして、走って、彼を見て、彼が見て、走って、信じられなくて、嬉しくて、笑って。
笑って、笑って、笑って、笑って。



そして長身に、ぴょんと飛びつく。



大ダイブ。



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