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つかつく砂吐き推進委員です。ヨロシクお願いいたします。

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エンジェリック 10




この感じは、ヤバい・・・
笠原氏は死んだように動かなかった。

手早くレベルをチェックする。
意識レベル300。
呼吸なし。
脈拍・・・なし・・・・

重苦しい想いに捕らわれながら、すぐ横のあゆみさんに尋ねた。
「お父様の持病は?心臓病とかありませんか?」
「お父様・・・お父様は・・・・おとうさま・・・イヤァァァァ!!!おとうさまぁぁぁ!!!」
衣服を緩めるあたしを突きとばすように、父親に縋りつく。
・・・ダメだこの人は・・・・・
「邪魔しないで!ちょっと、そこの人!」
壁際で固まっている給仕係を呼んで
「この人そっちに連れて行って押さえてて!」
「は・・・はいっ!」
「離して!お父様が!お父様が!!」
半狂乱のあゆみさんを連れて行ってもらう。

それから笠原氏の衣服を開き、馬乗りになる。
両手を組んで思い切り心臓の上に叩きつけた。

ドンッ ドンッ ドンッ

胸郭に響く低音に、あゆみさんが反応し大声で泣き叫び始めた。
心臓に耳をつける。
・・・・・・心拍は、ない。

すぐに心マを開始する。
そうしながら部屋の中を伺い、使えそうな人間を探す。
道明寺と・・・・・・道明寺のお母さんと・・・・・西田さん・・・・・それから・・・もう一人の店員はダメだ。
今にも逃げ出しそう。

「にっしっださん」
心マのせいで、声が跳ねる。
それでも西田さんは
「何をすればいいですか」
と、すぐ反応してくれた。
「フロントにっ行ってっ、救急車っ呼んでもらってっ下さいっ。あと、あったらっAEDっ持って来て」
「AED、ですね。わかりました」
短く返事をして、西田さんはすぐ出て行った。
「あと、お母さんっ、道明寺のっ。すいませんけどっ、秒数っカウントしてください」
「いち・・・に・・・さん・・・こうでよろしいのかしら?」
表情の乏しい顔の、でも目の奥は僅かに動揺が見える。
それでも彼女は、左手首のキラキラした時計に目を落とすとすぐにカウントを始める。
やった。
頼んでみたけど、協力してくれるか危ぶんでいた。
嬉しくて、つい声が大きくなる。
「はい、そうです!道明寺、あんたはこっち来て」
笠原氏の上からどいて、道明寺に代わってもらう。
「左手だけでいいから、ここ押して。1秒間に2回。お母さんのカウントに合わせて。5センチへこむくらい。   あんたバカ力だから気をつけて。やりすぎると肋骨折るよ」
「おう」
短く答えると、道明寺は早速心マを開始した。

あたしは頭の上に廻って、気道を確保するのと同時に人工呼吸を始める。
「・・・おいっ!」
道明寺が叫んだけど、睨んで黙らせた。

部屋の中には静かに秒数をカウントするお母さんの声と、笠原あゆみさんの叫び声。
その対比に眉根に皺が寄る。
処置しながら、あたしは感動していた。
道明寺チームの冷静さに。
余計な事を聞かないで、指示に従ってくれる事に。


「牧野様、救急車を呼びました。後はこれを」
待ち兼ねていた西田さんが帰ってきて、あたしにAEDの赤い箱が手渡された。
「ありがとうございます」
機械を取り出してセットする。
心臓を挟むようにパッドを張ると、モニターにはVTの波形が現れる。

効くかも。

「お父様っ!おとうさまあぁぁ!!!」
あゆみさんの悲痛な声が部屋に響く。
「彼女を連れだして下さい。家族は見ない方がいいと思う」
店員さんに引きずられながらも泣き叫ぶ彼女の声が、胸に刺さった。
準備のできたAEDから、離れるようにとアナウンスが聞こえてくる。
「道明寺、一回やめて。離れて」
笠原氏から手を離して見守ると、

バンッ

と、機械が鳴って横たわった身体が大きく跳ねた。
何度も見たことのある光景だけどやっぱり胸が痛む。
電流を流された身体は、まるで人形みたいに飛び跳ねて、何とも言えない気持ちになる。
眉根を寄せる道明寺を目の端に見て、モニターをチェックする。
「あ・・・・やったぁ・・・・・・」

心拍再開。

口元に耳を寄せる。

呼吸再開。

はぁぁぁぁぁ~~~~・・・・・・

とびきり大きい溜め息をつくと、聞こえるのは救急車のサイレン。
音が止まると、遠くからざわざわした気配が響いてきて、救急隊が到着した。

「どうしましたか」
救急隊の2名が笠原氏をストレッチャーに乗せる。
隊長さんに、手短に状態を説明した。
「19:40頃意識消失しました。胸苦があったようです。心肺停止状態で、すぐに救命開始しました。VT波形で、AED使って、心拍再開しています。既往についてはわからないので、娘さんにお願いします」
「医療職の方ですか?」
「あ、はい」
「患者さん、良かったですね。近くにあなたがいて」

救急車が行った後、レストランのオーナーが拝まんばかりに現れて、辟易したあたしは
「いえ、全部あちらの指示で」
と、道明寺のお母さんを示し、そのままトイレに姿を消した。
途端にオーナーは、抱きつかんばかりの勢いで魔女を感謝の言葉責めにする。
珍しく慌てた顔の魔女が、おかしくて笑っちゃったけど。



取りあえずパウダールームでガラガラうがいしていると、誰かが入ってきた。

ガラガラガラガラガラ・・・・

「ぺっ・・・・・・・ここは女性用なんですけど?」
思いっきり厭味ったらしく言ってやったのに怯む訳なんかなく、長身が後ろに立った。
確認しようと振り返ったら、そのまま抱きしめられてネクタイしか見えなくなった。
「まっ・・・って。なに・・・よ!」
いつ誰が入って来るかわからないこんな場所で、急に抱きつかれてアワアワ慌てた。
「はな・・・」

言い終わる前に顎に手が掛けられて、視界が開けたと思ったら問答無用でキスされる。
『何すんのよ、このエロ男。やめなさい。離して離して離してって!!!』
音になって聞こえたのは
「んんんん~、んん~~んん、、ん!!ん~んんん、んんん!」
だったけど。

くちびるを舐めまわす舌はちっとも緩まず、ギリギリ睨みつけてやってるのに、薄く眼を開けた
壮絶に色っぽい視線で跳ね返してくる。
「ん~~んんんんんん~!んんん!!」
「うるせえな、おまえは!!いい加減黙れよっ!!」
やっと唇が離れた。
「黙るかバカ!何してくれてんのよ!痴漢!ヘンタイ!変質者!
ベロベロ舐めまわしてあんたは犬かっつーの!!!」
「消毒してくれてんだよ!てめぇ、ちくしょうあったまにくる!あんなオヤジと!!」
「だって人工呼吸だもんしょうがないじゃん!!」
「頭にくるもんはくるんだよっ!!」
吠えてもう一度噛みつこうとするバカ犬に、一発入れてやろうと拳を握った瞬間。
「あっ・・・」
大きい手でくるみこまれ、優しく拘束された。
今度はゆっくりと、丹念に辿りはじめた舌についついうっとりして身体から力が抜けた。
胸の中に大事に抱かれてるのが気持ち良くて・・・抵抗できない。
引きずられる・・・・
・・・・マズイよ・・・・
その時。

カチャ
ドカッ
「いてぇっ!!」
多分、同時。

「司さん、ここは女性用ですよ」
カツカツとヒールを鳴らして道明寺楓が現れた。
突き飛ばされて打った頭をさする息子をちらりと見上げて。
「ワタクシは、もう戻ります。笠原さまはああいう事になってしまったけれど、どうなったかは
後で報告してちょうだい。重役会にはワタクシから通しますから」
「わかった。ビビったよな、あのオヤジいきなりぶっ倒れやがって」
「あなたのお話の進め方が悪かったんじゃないの?言動に気をつけるよう、以前から言っているでしょう?」
「はいはい」
「牧野さんには?」
「これから」

わ、この2人。
昔より、ずっと関係が良くなってる?
親子愛って感じはしないけど。
戦友・・・って感じ?
良かったね、道明寺。
良かったね、お母さん。

嬉しくなってニヤニヤしてると、魔女の視線がこっちを向いた。
「牧野さん?」
「は、はい!」
「逃げたわね」
「は、はい!いいえ!あ、はい」
しどろもどろのあたしに、ふっと唇の端だけで笑うとそのまま立ち去る。
「格好よかったわよ」
と、一言残して・・・・・


はぁ~~~~
相変わらずスゴイ迫力。
あの威圧感。
あてられてボーっとするあたしの頭をその息子が撫でる。
「・・・・何してんの?」
「ババァの代わり」
「ぷっ、んな訳ないし。でもビックリした~。お母さんと、仲良くなったんだね」
「ケッ、気持ち悪りぃこと言うな」
プイとそっぽを向く顔が、赤い。

くっくっく・・・・
「うるせえ、笑うな!俺も変わったし、ババァも変わった。そーゆー事だろ」
そう言ってこっちを見下ろし、ニヤリと笑う。
「そういや聞いたぜ、ババァに」
「何を?」
「お前ババァに茶ぁぶっかけたり、ひっぱたいたりしたんだって?
しかもお前のかーちゃんには頭から塩かけられたっつってたぞ」
「げっ」
今度はあたしが赤くなる番だった。
「そ、そんな昔の話、今するの反則!」

くっくっく・・・
「うるさい、笑うな!」
目が合って、吹き出した。
もう一度腕の中に閉じ込められて、見上げる優しい目。
「お前が変えたんだ。ババァも俺も」

頬を包むあたたかい手。

「っつーか」
重大な秘密でも打ち明けるみたいに、じっと眼を見る。
「さっきよぉ、笠原に婚約解消の話し、してたんだぜ」
知ってる。
っていうか、何?
この『誉めて誉めて』みたいなキラキラした目は。
ちょっとかわいい。
ご褒美ねだる犬みたい。
「お前、今ヘンな事考えてんだろ」
「や、別に?ぷ、ふふふ」
「チッ、まあいいや。婚約解消したら、お前、ちゃんと戻ってこいよ?
っつーか、俺は今すぐでもいいけど。一刻も早く俺の女にしてーよ」
真っすぐな視線は、とっても真摯だった。




道明寺が、甘えてねだる。
「なあ、なあ、牧野。さっきの続きしようぜ」
あたしが火を吹いて怒る。
「!!!!するか!ばか!!!」
何年経っても変わらないよね、あたしたち。

「んだよ、お前だって結構ヤル気マンマンだったじゃねーか」
「んな訳あるかー!!!」
ドフッ
「ぐえっ」
今度は綺麗に入った。
              
                                       




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