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つかつく砂吐き推進委員です。ヨロシクお願いいたします。

エンジェリック 9



「・・・・・何をなさっているんですか」
入ってきた西田さんが見たのはベッドであたしの上に馬乗りになっている上司。
「よっ!西田、お疲れ!」
「・・・・・・・・・・・」
部屋の空気が10℃ほど下がった。
ヒョオオオォォォォォ・・・・・

さすがのバカも何かを悟ったらしくあたしの上からどく。
「ご機嫌ですね」
「おう」
「最後の詰めが残っております。浮かれてミスなどしませんように」
「わーってるよ!」
やーい、おっこられた~!
結局捕まって、無理矢理もう一度
『き、きもちよかった』
なんて言わされた恨み。
せいぜい西田さんに怒られるがよい。

「ところで牧野様にお話しになられましたか?」
「あ?なんだっけ?」
「・・・・・・・・・・」
あたし・・・
西田さんが可哀想になってきた。
さすがの西田さんはポーカーフェイスのまま、くるりと向きを変えこっちに来た。

「牧野様、本日19時より会食が予定されております。司様の付き添いとして、牧野様も一緒に
来ていただきたいのですが」
「わかりました。行きます」
あたしは西田さんをねぎらう気持ちいっぱいで即答した。
「・・・笠原様との会食で申し訳ないのですが・・・」
「げ」
・・・・・・先に言ってよね。
さっきの即答を撤回もできず、小さくため息をついた。



『牧野様と私は別室ですから大丈夫ですよ』
西田さんの言葉に縋るように祈る。
やっぱ会いたくないし。
コイツの婚約者なんか。

「そういや、ババァがお前に話があるって言ってたぞ」
「え?あんたのお母さんも来るの?」
「おう」
よっぽど大事な話し合いなんだ。
結婚の日取りでも決めるのかな。
話って・・・もう息子は結婚するんだから、傍をウロウロすんなとか言われんのかな。
また。
あ~・・・シゲルさんの時と、これで2回目?

あたしは暗い気持ちになりそうになって、慌てて気合を入れ直した。
「ほら、道明寺!手が下がってる!」
横から『は~い』のポーズを作ってやると
「っつーかこれ疲れんだけど」
「しょうがないの!車降りたらどうせ下げちゃうんでしょ。今は上げといて!」
「ったく・・・だりぃ・・」
文句を言いながらも、言う事を聞いてる姿に小さく笑う。

車が、広い車寄せに入った。
運転手さんが開けたドアから先に降りた道明寺が、あたしに手を差し出す。
「ほら」
「ぷっ・・・逆じゃん。あたしが降ろしてもらってどうすんのよ」
「俺は紳士だからな」
「あはははは」
手を貸してもらって車から降りる。
途端に硬いヒールの音がして、道明寺楓が姿を見せた。

「お久しぶりね。牧野さん」
「ご無沙汰しております」
会釈して顔をあげると、下からすーっと眺められた。
ななな何かヘンだったかな。
お姉さんのプレゼントしてくれた服だから、大丈夫だと思うんだけど。

本当は、白衣のまま来ようと思ってたけど、道明寺があんまりウルサイから諦めた。
「イメージプレイかよ!」
「AVの撮影かよ!」
「コスモポリタンかよ!」
「・・・コスプレ?って言いたいの?」
コスしか合ってないし・・・
「とにかく、俺の人格が疑われるからやめろ」

あたしとしては、看護師として援助をするために傍にいるって言う設定を前面に押し出して
・・・って、設定って何!まぎれもない事実じゃん。あたしと道明寺は看護師と患者。それだけ・・・・
って、強く言えないのはうっかり本気でキスなんかしちゃったからで・・・思い出しても恥ずかしい。さっきのノリノリのあたしって一体・・・ぎゃぁー!!!ううん!!!もう済んだこと!これから気をつければいいし。

「あの」
俯いてた顔を上げて、さあ魔女と対決?
と意気込むも、そこには誰もいなくて・・・・
「あの・・・もう皆さんお入りになりましたが・・・」
運転手さんの、遠慮がちな言葉だけが響いた。

慌てて追いかけると、でかい扉を入っていく長身の背中。
扉が閉まる瞬間、ちらりとこっちを振り返って。
死ぬほど甘い顔して、笑った。
あたしは一気に茹であがり、硬直する。
「司様は、本当に牧野様がお好きなんですね」
「ひぇっ?」
急に後ろからかけられた声に跳び上がると、激レア・・・西田さんのにっこり・・・
思わずまじまじと顔を見てしまった。
「人の顔をじろじろ見るのは感心しませんね」
あっ!能面に戻った。
「さて、私達はこちらです」
促され、横の部屋に入ると2人分のテーブルセットができている。
「食事をしながら待機するようにとの事です」
「はぁ・・・」
西田さんと2人で食事って、び、微妙・・・・



テーブルについて頂きますをして食べ始める。
西田さんも両手を合わせて頂きます、するのを見て嬉しくなった。
ふ、ふ、ふ、勝手に名前つけちゃおう。
庶民連合。
「牧野様、今日の会食の目的なのですが・・・」

ガチャン

「あ!す、すいません!」
ナイフがお皿に強くぶつかって、大きな音を立てた非礼を詫びると、西田さんは何でもない事のように頷く。
「これから、私の言う事を黙って聞いていて頂きたいのです」
「・・・・・・・」
イヤです、って言いたかった。
けど。
西田さんの、強い視線がそれをさせなかった。


「7年前。司様は騙されるようにして笠原あゆみ様と婚約されました。
当時は笠原財閥の勢力は強く、一旦公にされた婚約を撤回するすべはありませんでした。
司様は何度も掛け合ったのですが、その度に、経済措置を匂わされて、社に関わる人間の事を考えれば引っ込まざるを得なかった。
重役会にも手が回されていて、婚約は大歓迎されました。」

西田さんは言葉を切って、じっとあたしを見た。
「牧野様、司様の渡米はもともと4年の予定でした。それがどうして3年も伸びたのか、お分かりになりますか?」
「いえ・・・あの・・・・」
言いづらさに口ごもる。
「あたしはもう必要ないから・・・あたしとした4年の約束なんて、重要視してないからだと・・・・
・・・思っていました」
「・・・・・・それではあまりにも司様がお気の毒です」
静かな声に、ぎゅんと胸が痛んだ。

「司様はこの7年間、笠原の力を削ぐためにずっと動かれておりました。
相手が強すぎて拒否できないなら、こちらが相手より勝るしかないと。
詳しい話は省かせていただきますが、それは成功しつつあります。
・・・この一週間が最後の詰めでした。笠原も日系企業ですから、どうしても日本でしかできない折衝もあります。
病院で言ったでしょう?
司様の一生と、道明寺財閥の将来がかかっているくらい大切な仕事だと
司様の口癖をお教えしましょうか
『牧野を取り戻さなきゃ、俺も、道明寺もそのうち死んじまう』」

「・・・だって、そんな事一言も・・・ずっと・・・」
あんまり目と口を開けていたせいで、声が掠れる。
「そんな事をわざわざ言う方ですか?まだ現実になっていない、不確実な事を」
「だって・・・だって・・・だって」
頭の中が混乱して、ばかみたいにだってを繰り返す。

呆然と言葉を紡ぐあたしに、西田さんは続けた。
「今、この隣の部屋で、道明寺家から笠原家へ、正式に婚約解消の申し入れがされております。
多分、笠原は断れませ」

ガターンッ!!
がシャッガシャガシャ!!!!

西田さんの言葉は隣室からの物音で遮られた。
「な、なに!?」
まさか道明寺がキレて暴れてるんじゃ・・・
とっさにドアに走り寄り、大きく開く。

最初に目に入ったのは、テーブルの向こうで立ち上がっている道明寺。
そして手前に目を移すと、小柄な男性が、椅子から転げ落ちて床に倒れていた。
「お・・・・・とうさま」
呆然としているのは、多分笠原あゆみさん。
「どうしたの?」
駆け寄ると、道明寺も目を見開きながら
「いきなり胸押さえて倒れた」
呟いた。






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