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つかつく砂吐き推進委員です。ヨロシクお願いいたします。

エンジェリック 7






「もう、右手使っちゃダメじゃん!ただでさえ貧血なのに。もう、血が勿体ないなあ!」
「・・・お前、こういう時にも勿体ないかよ」
「やっぱ、白衣に着替える。普通の服着てるとビリっとしないしモチベーション下がる。
ちゃんと仕事できない。動きづらいし」

あんたが迫ってきたら逃げられないし。

「やだね、また厳しくなるじゃん」
「あのね」
言いかけた時、ノックの音。


椿お姉さんとタマ先輩が入ってきた。
「つくしちゃん、司、どう?」
「熱が下がったんで、いいみたいですよ」
「そう」
お姉さんは道明寺を潤んだ目で見ると、あたしに向き直った。
「西田から報告を受けました。ほんとっ!ありがとうね、つくしちゃんっ!!」


あっ!
やばいっ!

ぎゅううううぅぅぅぅぅううううぅぅぅぅ
「く・・・・くる・・・・・・」
「ねーちゃん、やめろ!牧野が死んじまう!!」
道明寺が慌てて止めなかったら危なかった。
「・・・・・・・ぜぇ・・・ぜぇ・・・」
酸素を求めて喘ぐあたしの背中をさすりながらお姉さんが
「ごめんっ!つくしちゃん、大丈夫?」
と焦る。
その手がぴたりと止まった。
「ねぇ、つくしちゃん、背中に血が付いてるんだけど・・・」
それから、あたしの顔を見て、道明寺の腕を見て、換えた包帯を見て・・・・

あたしの頭の中に、過去の映像が浮かぶ。
『司~!このケダモノ~!』
と叫んで、道明寺に殴る蹴るの暴行を加えるお姉さん。

と、止めなきゃ。
一応病人だし。

ところが、身構えたあたしの決心は、静かに
「どうだったの、司」
と尋ねたお姉さんによってウヤムヤにされた。
・・・・・・あれ?
「おんなじ」
と答えた道明寺もビビる様子はなく・・・



「つくしちゃん、着替えてきたら?」
お姉さんが振り返ってにっこり笑う。
「あ、でも白衣はダメよ?」
「え?どうしてですか?」

「だって、仕事モードのつくしちゃん、ちょっと怖いんだもん。あきらから聞いた通りだったわ。
久しぶりに会ったんだもん。お喋りしたり、いろいろしたいのよ~」
・・・・・・・・・この姉弟は・・・・・・・
2人してあたしの仕事を邪魔する気か。
「お姉さん、申し訳ないんですけど」
あたしが言いかけた時、またノック。
先輩がドアを開けると、メイドさんが立っていた。
「笠原あゆみ様が、坊ちゃんのお見舞いにみえま」
「追い返せ」
「司は面会謝絶よ」
メイドさんが全部言わないうちに、道明寺とお姉さんの声が重なった。

笠原あゆみさんって、道明寺の婚約者じゃん。
・・・・・・・いいの?
ビックリする気持ちと、彼女に会わない事でホッとする気持ちが混ざり合った。
多分あたしは複雑な表情をしていたんだろう。
お姉さんはあたしの手を取ると、部屋から連れ出した。
「着替えないと。つくしちゃん」
ゆっくりと廊下を歩きながら、話す。

「ごめんね?つくしちゃん、笠原の事ではイヤな思いさせて」
「いえ、もう・・・・7年も経ってるし、何にも・・・」
ずきん、と胸が痛くなった。
「あの時はショックだったけど、後から考えたらこれで良かったのかなって・・・彼女なら財閥同士で道明寺の助けになるし、重役会だって大賛成だって・・・」
「ねぇ、つくしちゃん」
静かに、尋ねる優しい声。
「つくしちゃんは、まだ司の事を好きでいてくれてる?」

この人にウソはつけなかった。

でもホントの事を言う訳にもいかなかった。

あたしは視線を泳がせると、曖昧に笑った。

笑えた。

多分。

お姉さんはどこか痛いような顔であたしを見た。

「ごめんね・・・でもこれだけ言わせて。司はただ状況に流されてた訳じゃないってこと。
それから・・・重役会はその時々で、一番会社に利益をもたらす物を選ぶんだってこと。
・・・・今は・・・・これしか言えないけど・・・」
「お姉さん・・・」
見上げると、お姉さんは花が咲くように笑った。
「さあ、この話はお終い!行きましょ」
「あ、お姉さん、あたしやっぱり白衣の方が」
「え~!ダメよ~!」
「でもダメなんです~!って言うか、あたしの着替え、あの隣の部屋なんですけど・・・」
「あら・・・」
顔を見合せて・・・吹き出した。



部屋に戻ると、空気が一変していた。
ベッドの上に、枕にもたれて起きた道明寺。
膝の上にノートパソコン。
周りに散らばった書類。
向こうのテーブルには西田さんがパソコンを前にして座っている。
「もう、仕事してるの?司、あんた熱が下がったばっかりでしょ」
「笠原の名前聞いたらヤル気出た」
・・・・・元カノの前でノロケんなよ・・・・・
思わずゲンナリして軽く睨む。
「違うからな」
顔も上げずに言われた言葉。
あれ、あたし・・・
「口に出してたわよ」
ぷぷぷと笑ってお姉さんが言った。
「ゲッ」
気まずくて、そのままゴニョゴニョ言いながら着替えるために隣の部屋に消えた。


先生が退院を許可する代わりに出した指示は大きく4つ。
患部の安静と挙上
抗凝固剤の持続投与
最低2時間置きの血流の確認
異常があればすぐに病院に戻ること。
報告はメールでする事になっていて、患部の画像も送れるようにとパソコンとデジカメが
貸し出されている。
再び白衣に着替えると、気持ちがしゃんとする。
あたしは自分に与えられた部屋で、これから1週間の援助計画を立てはじめた。

「う~~ん」
いつの間にか時間が経っていて、薄暗くなってきている。
また1時間経っていて観察の時間。
1時間って、結構すぐなのよね~。
ベッドに上がり、ドップラーで脈を確認する。
手の甲を軽く叩くと、何も言わなくても握ったり開いたりして指の動きを見せてくれる。
今のところ、問題なし。
道明寺が画面を睨んでいた目をちらりとあげた。
仕事中の、鋭い視線を当てられてドキンと心臓が打った。
「・・・・・・・気が散る?」
「いや・・・」
「今のところ、問題ないよ」
「サンキュ」
そのままジッーと見てる。
「なぁ、まさか夜も1時間置きに見んのか?」
「ううん、夜は2時間でいいって先生が言ってたから。あ、あんたは寝ててよ?あたし、勝手に
入ってきて勝手に見て行くから。静かにするつもりだけど、起こしたらごめん」
「お前、寝れないじゃん」
「しょーがないじゃん。この家に看護師、あたししかいないんだから。」
冗談めかして笑った。
「それに、寝れないのは夜勤とかで慣れてるから大丈夫。・・・ねぇ、今仕事、いいの?」
「ああ、ひと段落」
「そしたらさ、一回横になって」
道明寺が大人しく横になる。
「少し顔色が悪いね。疲れたんでしょ」

無理しなきゃいいのに・・・
熱・脈・体温・酸素濃度、次々測っていって記録していく。
これがあたしの仕事。
あたしが道明寺を助ける方法。
パジャマを開いて胸をはだけさせて、聴診器で呼吸音を確認していたら、いきなりドアが
開いて、賑やかな人たちが乱入してきた。

「よお、司、退院したんだってな」
「来てやったぞー」
「司~!だいじょーぶ~?今日、病院行ったらもう居なくてさ~、ごめんね~」
「先輩、先輩が道明寺さんのお世話をするって聞きましたけど」
口々に言いながらベッドの周りを囲む。
「あ~!聴診器だ!聴診器!かっこいい!あたしもやってみたい!」
「遊んでる訳じゃないですから」
今にも手を出しそうなシゲルさんを注意すると、ウッと詰まって隣の美作さんに
「皆の言ったとおりだ~!仕事中のつくしは怖い~~!!」
と泣きついた。

「怖くないですよ。もう、皆して怖い怖いってシツレーな」
「だって怖えーもん」
「普段とのギャップがスゲーんだよ」
「司もタジタジだったもんな。ははは」
「白衣を着ると豹変するんだもんね。牧野」
「花沢類!」
昨日の大泣きを思い出して、赤くなったあたしの手を道明寺がぎゅっと掴む。
「いちいち赤くなるな」
「べ、別にそんなんじゃ・・・」
「しかし、司のわがままもスゲーな。退院しちまうのはまだわかるとしても、ちゃっかり牧野まで
連れてきちまうなんてな」
「くっくっくっ・・・司の婚約者に知られたら、牧野、抹殺されんじゃねぇ?」
「怖いらしいぞー、あゆみお譲様」
「パーティーで見たことあるけど、マジ気ぃ強えーよあの女」
「知らねーよ。喋ったこともねぇ」
「ウソっ!!」
シゲルさんが大声を出した。
「だって婚約して7年も経ってるのに?」
「婚約なんて認めてねーし」
憮然としてそっぽを向いた道明寺を全員が注目して、そしてその後、10個の目はじーっと
あたしを見た。

「な・・・・何よ」
「別に?」
「ねぇ?別にねぇ?」
皆で示し合わせたみたいにうなづき合ってんじゃないわよ。
すっごいヤな感じ!
「何よ、言いたいことがあるなら言いなさいよ」
「言っていいんですか?」
意地悪な光を湛えた桜子の目にタジッとなって
「やっぱダメ」
とソッコー断った。
「・・・・まあ、道明寺さんの前ですし、今日は勘弁してあげますけど」
後でゆっくりね、と、悪魔みたいに桜子が微笑んだ。


 





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